暗闇の中、森の名城ハインシュタインに二つの大きな翼の主が舞い降りる。 『グリフォンのミーノス』と『ガルーダのアイアコス』は、城の入り口で大勢の冥闘士たちと十数名の縛られている冥闘士たちを見て何事かと思った。
「ミーノス様、ご無事でしたか!」 ルネはほっとした表情でミーノスに駆け寄った。 アイアコスの所にも彼の部下が駆けつける。 しかし、バレンタインがいくら上空を見ても、自分の敬愛する上司は舞い降りてこない。
「ミーノス様、ラダマンティス様は!」 バレンタインの言葉に彼はアイアコスの方を見た。 「ラダマンティスなら野暮用で別の場所に行っている。 もう直ぐ戻ってくるだろうから、心配するな。」
アイアコスの言い方は、明るかった。 「それよりも、ここでミューの糸と思われるものでグルグル巻きにされている者達はどうしたんだ?」 逆に尋ねられて、冥闘士たちの間に緊張が走る。
ミーノスはルネの方を見た。 「何があったのか言いなさい」 上司の静かな、そして有無を言わせない言葉に彼は答えるしかなかった。 「実は、明らかに正気を失っており、仲間である我々に攻撃を仕掛けるので、一応気絶させております。
そしてそのうちの一人が、パンドラ様が我々を裏切った言い出しはじめて、それを聞いた者達も次々と奇怪しくなったのです」 ルネの説明にミーノスとアイアコスはお互いに顔を見合わせた。
「つまり、今ここにいるのは、その噂を聞いても正気でいられる者か」 アイアコスは面白そうに笑う。 「こんな形で、あの言葉の意味を知る事になるとは、皮肉なものですね」
ミーノスも溜息をついた。 復活直後に出会った、争いの女神の言葉。 『冥王のいない今、冥衣の力が人間を蝕む様を見られるかと思っただけだ』 三巨頭たちは言われた直後は信じていなかったが、ミーノスとアイアコスはこの様子を見て、直感的にそれが真実である事を知った。
理由は判らないが、正気を失った冥闘士たちは何かに蝕まれているのだろう。 しかし、ここで立ち話を続けたところで仕方ない事である。 アイアコスは冥闘士たち全員に号令を発した。
「冥闘士軍はこれから冥界へ戻り、聖戦で荒れたであろう獄(プリズン)の後始末をする。 聖域とするべき聖戦後の交渉事は、我々三巨頭がやる。 今は復興する事だけに集中しろ。
お前たちが心配する事は何も無い」 彼の堂々とした命令に、全員頭を下げた。 「それから、彼らはこのまま眠らせておきなさい。 正気を失った者たちに関しては、事情を知っているであろう者に心当たりがあります。
それまで、刺激を与えないように何処かへ監禁しておきなさい」 優しいのか容赦が無いのか、紙一重なミーノスだった。 「それから、バレンタインたちは五人までここに残ってラダマンティスの帰りを待つ事。
置き手紙では、彼も何が何だか判らないでしょうから」 五人までというミーノスの言葉に、バレンタインたちは何か嫌な予感がした。 だが、断る理由は無い。
上司の帰りを待つ為の理由を素早く考えていた彼としては、願ったり叶ったりだからである。 彼は素直に礼を述べる。 だが、言った方は何やら楽しそうだった。
「礼を言われる程の事ではありません。それくらいの人数は必要でしょう」 何に対してなのか。 ミーノスの不穏な言葉にバレンタインは不安を感じずにはいられなかった。
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