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神代の夢 4

「気の流れがこっちのものとは違うからな。 迷い込んだのか?」
「た、多分、そうだと思います……」
「ならば、早く元の場所へ戻れ。ここに長くいると、海闘士共が煩いからな」
「えっ!」
海闘士と聞いて、春麗は以前世界中に起きた水害を思い出した。
(もしかして、ここは海闘士の関係する所なの!)
自分が聖闘士の側の関係者だと知られたら、どうなってしまうのだろうか。
春麗は不安と緊張で自分の血の気が引いていくのが判った。
「どうした、何か問題でもあるのか」
女性は怪訝そうな顔をする。
もう一人の女性はその様子を涙目で見ていて、いきなり春麗の腕を引っ張る。
「あっ!」
そして、まるで母親が子供をあやすかの様に、彼女を抱きしめたのである。
女性はその姿を見て溜息をついた。
「……すまないが、しばらく気の済む様にさせてやってくれ。 今、情緒不安定なんだ」
だが、彼女の行動で落ち着きを取り戻したのは春麗の方だった。
「そう言えば、まだ名乗っていなかったな。
私は競いの女神エリス。こっちは海の女神でテティスだ」
春麗は彼女から離れてお辞儀をする訳もいかず、そのまま名乗る事にした。
「春麗と言います。あの……私……」
どうやったら戻れるのでしょうか?と言いたかったが、テティスが力を込めて彼女を手放すまいとしているので、なんとなく言葉を続けることが出来なかった。
「もし、急ぎの用事が無いのなら、しばらくそのままで我慢してくれ。」
そう言われると、自分で帰る方法の判らない春麗としては大人しくしているしかない。
「多分、背格好があの子に似ているから、そうやっていると戻ってきたみたいで安心なんだろう」
「はぁ……」
どう返事して良いのか判らず、春麗は相槌を打つに留まる。
すると海の女神は春麗を強引に自分の方に向けさせられた。
彼女は何も喋らない。ただ、嬉しそうに力一杯、春麗を抱きしめている。
エリスは女性に向かって話しかけた。
「この子は直ぐには帰らないから、とにかく飲み物くらい用意してやれ。
遊びに来た子を海の女神は持てなしもしないと、噂されるぞ」
すると彼女は慌てて、春麗を離す。
そして彼女の両手を自分の両手で包んで微笑むと、部屋から出て行った。
「あの、良いのですか?」
「構わん。気に入った子には無償の愛情を与える。そうする事が嬉しいのだ」
競いの女神もまた、嬉しそうに春麗の事を見た。。