亡者たちが苦しみの声を上げている場所。 一輝はその様子を見て、ここは地獄であると直感した。
(俺が堕ちるには相応しい場所かもしれんな) 数々の戦いで敵を撃破し、自分の手は既に血にまみれている。 だが、後悔はしていない。 どんな苦痛も、あの時彼女を失った痛みに比べたら何でもない事なのだから。
鳳凰の神聖衣も既にボロボロに朽ちていた。 (もう、鳳凰の翼も蘇る事はないのだろう) 不死鳥もまた、初めて死を迎えたのかもしれない。
一輝が血の色の様な天を仰いだ時、その視界に一つの白い光が見えた。 それはゆっくりと降りてきている。 (何だ?) その時、彼の背後に黒い影が五つの影が現れた。
咄嗟に敵かと思い警戒したが、それはかつて自分の配下だった暗黒聖闘士の五人だった。 「一輝様。あの光を捕まえて下さい」 B・アンドロメダが真剣な表情で言う。
「何だと……」 「そして、あの島を真に解放してください」 B・キグナスの言葉に一輝は訝しげな顔をした。 「真の解放とはどういう事だ」
すると今度はB・ドラゴンの弟。 「暗黒の聖衣は、ある目的で作られていたのです。 そしてその力の源は、負の意識でもある黒い小宇宙。 それを利用して黒の聖域とも言うべきモノを作り上げた存在が目覚めました」
伏龍であるB・ドラゴンの兄が言葉を続けた。 「このままでは、一輝様のなさった事が全て無駄になります。 早く地上にお戻り下さい」 彼らの言っている事が本当なら、早く元の世界に戻らねばならない。
だが、 鳳凰の翼がもがれた今、自分にどれだけの力があるのか。 (いや……、俺は諦めない) 島にはあの少女が静かに眠っている筈なのだから。その眠りを妨げさせはしない。
すると、B・ペガサスが驚くべき事を告げた。 「一輝様、俺とB・キグナスが翼を再生します。 B・アンドロメダとB・ドラゴンたちが神聖衣に力を与えますから、絶対にあの光を捕まえてください。
チャンスは一度だけです」 そう言って彼らはその姿を消した。 次の瞬間、再び鳳凰に翼が蘇った。 漆黒の翼だったが、彼は気にしない。 (あいつらが力を貸してくれる。なんとしても元の世界に戻る!)
天から降りてきた輝きはもうすぐ地面へ着きそうだった。 下では亡者たちが光を捕まえようと手を伸ばしている。 「悪いが、俺は生きなければならない」
一輝は黒い翼を羽ばたかせた。 そして亡者たちよりも遥かに高いところで光を捕らえる。 『やっと見つけた……』
光に触れた瞬間、懐かしい少女の声が彼の脳裏に響いた。 「エスメラルダ!」 光は少女の姿になり、彼を抱きしめる。 そして鳳凰の黒い翼は表面が剥がれ、その下から炎の様な翼を現したのである。
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