☆ | ☆ |
地上への道はまだ続いていた。 しかし、エウリュディケーが用意した道なので、どんなに長くても沙織たちに不安は無かった。 「ねぇ、エリス。 エリスの望みって何なの?」 沙織はエリスの服を掴んで、引っ張る。 「そうだな……、二人には言っておいても良いかもしれないな。 私がレーテーの水を飲んでいた場合、お前たちが騒いでくれれば、ムネーモシュネーの水を飲もうと考えるかもしれない」 それを聞いて、パンドラの表情が明るくなる。 「レーテーの水を飲んでも、ムネーモシュネーの水を飲めば平気なのか?」 尋ねられて、沙織は頷く。 「手に入れられるかどうか判らないけど、とにかく大丈夫な筈よ。ただ、自分たちがレーテーの水の所為で忘れているという事すら、忘れている可能性があるけど……」 「お前たちが忘れていたら、私が持ってきてやろう。 せっかく一緒にヘカテ様の試練を受けたんだ。 忘れ去られて共有する者がいないのは残念だからな」 エリスの言葉にパンドラは素直に喜んだ。 沙織は経験上、ちょっと嫌な予感がした。 「エリス。私たちに是非とも騒いで欲しいと思っているでしょ」 彼女は争いの女神の顔を覗き込む。 「その通りだ。私には忘れてはいけない目的がある」 彼女は真剣な眼差しで、沙織を見た。 怖いくらいに人の心を突き刺す様な鋭さがあった。 「……いったいそれは何なの?」 沙織の心臓は早鐘を打っている。 二人の間に流れる緊張を、パンドラは感じた。 「海将軍たちを、タルタロスへ落とす。 それが私の望みだった」 エリスの表情に現れた殺意に、沙織とパンドラはその場から動く事が出来なかった。 |