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眠りゆく王 6

瞬は驚いて、咄嗟に彼から離れた。
振り向いた時、そこに居たのは透けているハーデス。
「冥王!その身体は!」
瞬は驚いて涙を拭く事も忘れてしまった。
『女神ヘカテの元へ、いきなり行ったのだ。 身体は壊れてしまった』
ハーデスは怖い事を平気で言う。
『アンドロメダ、このエリュシオンで泣く様な事があったのか?』
指摘されて瞬は慌てた。
「違う!気にしないでくれ」
『状況が変わった。お前たち五人を一人づつ見つけて、タルタロスにでも突き落とそうかと思ったが止めた。
地上に返してやろう』
「??」
ハーデスの言葉の意味が判らず、瞬は思わず聞き返す。
するとハーデスは呆れる様な顔をして彼の問いに答えた。
『アンドロメダ。お前達は神との闘いにおいて、人間側の勝利条件を誤解している』
「誤解って……」
『人間側の勝利条件は、生きて元の世界に戻る事。 それ以外の結末は勝利ではなくて、引き分けだ』
「引き分けだって!」
『当たり前だろう。人間に神は倒せん。 問題が先延ばしになっただけの事だ。
お前達は冥界の崩壊から自力で脱出が出来なかっただろう』
確かに、あの崩壊からどう脱出したのか判らない。
しかし、それを言ったら、あの暗闇にいた理由も不明である。
『神代の頃の聖戦では、ペガサスが余の身体に傷を付けたばかりか、地上への生還を果たしたぞ』
そう言いながら、ハーデスは不愉快そうな顔つきになった。
「冥王は、星矢を見て驚いていたね」
『……聖衣が違っていたから、最初は思いだせなかったがな。
あの時は姉上も冥妃もペガサスの味方をした。ポセイドンがあんな事をしなければ、あの二人はペガサスの味方などしなかった筈だ』
いきなりポセイドンの名を出されて、瞬はどう返事して良いのか返答に困ってしまった。
「海皇が何か?」
『こっちの事情だ。お前が知る必要はない。
それより余はこれから眠りにつく。 姉上が冥闘士たちと、余の帰りを待ってくれると約束してくれたからな』
ハーデスの足元からエリュシオンの花々が結晶化し始める。
『アンドロメダ。お前に伝言を預ける。
あやつに会ったら、お前の望むものは箱の中にあると伝えろ』
そう言って、ハーデスはさっさと姿を消した。
「ちょっと、待って!!誰に言えば!」
瞬の叫びは尤もだが、そんな彼も足元から黒い霧に、突然まとわりつかれる。
(しまった!)
徐々に力が抜けていくのが判る。 そんな彼の耳に、ハーデスの声が届いた。
『世話をかけたな。それを上手く使え』
強引な神は、最後まで瞬の都合を考える気は無かったらしい。
瞬は黒い霧を振り払おうと腕を振り回した。


「瞬!ネビュラチェーンを何とかしろ!」
一角獣座の邪武は、部屋の外から瞬に向かって大声で叫んでいた。 海蛇星座の市が一緒に部屋を覗いている。
「チェーンの所為で、近寄れないざんす。 警戒を解いて欲しいざんす」
瞬は自分の手に持っているチェーンを見た。
再び入り口を見てみると、壁に幾つか穴があいている。
(僕、無意識に攻撃してたんだ!)
瞬は慌てて起き上がった。