瞬は驚いて、咄嗟に彼から離れた。 振り向いた時、そこに居たのは透けているハーデス。
「冥王!その身体は!」 瞬は驚いて涙を拭く事も忘れてしまった。 『女神ヘカテの元へ、いきなり行ったのだ。 身体は壊れてしまった』 ハーデスは怖い事を平気で言う。
『アンドロメダ、このエリュシオンで泣く様な事があったのか?』 指摘されて瞬は慌てた。 「違う!気にしないでくれ」 『状況が変わった。お前たち五人を一人づつ見つけて、タルタロスにでも突き落とそうかと思ったが止めた。 地上に返してやろう』
「??」 ハーデスの言葉の意味が判らず、瞬は思わず聞き返す。 するとハーデスは呆れる様な顔をして彼の問いに答えた。 『アンドロメダ。お前達は神との闘いにおいて、人間側の勝利条件を誤解している』
「誤解って……」 『人間側の勝利条件は、生きて元の世界に戻る事。 それ以外の結末は勝利ではなくて、引き分けだ』 「引き分けだって!」
『当たり前だろう。人間に神は倒せん。 問題が先延ばしになっただけの事だ。 お前達は冥界の崩壊から自力で脱出が出来なかっただろう』 確かに、あの崩壊からどう脱出したのか判らない。
しかし、それを言ったら、あの暗闇にいた理由も不明である。 『神代の頃の聖戦では、ペガサスが余の身体に傷を付けたばかりか、地上への生還を果たしたぞ』
そう言いながら、ハーデスは不愉快そうな顔つきになった。 「冥王は、星矢を見て驚いていたね」 『……聖衣が違っていたから、最初は思いだせなかったがな。
あの時は姉上も冥妃もペガサスの味方をした。ポセイドンがあんな事をしなければ、あの二人はペガサスの味方などしなかった筈だ』 いきなりポセイドンの名を出されて、瞬はどう返事して良いのか返答に困ってしまった。
「海皇が何か?」 『こっちの事情だ。お前が知る必要はない。 それより余はこれから眠りにつく。 姉上が冥闘士たちと、余の帰りを待ってくれると約束してくれたからな』
ハーデスの足元からエリュシオンの花々が結晶化し始める。 『アンドロメダ。お前に伝言を預ける。 あやつに会ったら、お前の望むものは箱の中にあると伝えろ』
そう言って、ハーデスはさっさと姿を消した。 「ちょっと、待って!!誰に言えば!」 瞬の叫びは尤もだが、そんな彼も足元から黒い霧に、突然まとわりつかれる。
(しまった!) 徐々に力が抜けていくのが判る。 そんな彼の耳に、ハーデスの声が届いた。 『世話をかけたな。それを上手く使え』 強引な神は、最後まで瞬の都合を考える気は無かったらしい。
瞬は黒い霧を振り払おうと腕を振り回した。 |