エリュシオンの花々は美しく咲き誇っていた。 先程まで戦場だったとは思えない。 (結局、冥王は何の為に僕を呼んだんだ?)
話し相手が欲しかったわけでもあるまい。 瞬は辺りの様子を見回した。出口を探す為である。 (早く地上へ戻って、ジュネさんに会わなきゃ)
とはいえ、会って何を言えば良いのかが判らない。 (ジュネさんは好きだけど、それが恋愛感情なのかと考えるとよく分からないし、あんなにも酷いことをしたんだから、会った途端に殺されるかもしれない)
その時、瞬はある事を思い出した。 (あれっ?そう言えば、ジュネさん。 ダイダロス先生から、狩りの時以外での殺生は禁じられていたなぁ)
聖闘士である以上、敵を傷つける事に躊躇っては自分が殺されてしまう。 だが、ダイダロスはそれが宿命だとしても、ジュネにはそこまで相手を追い詰める事を厳しく禁じた。
それ故に、彼女の修行は別な意味で大変だった。 何せ、どのような事態でも結果的に人を殺めたら、その時点で修行は終わりだったと聞いたことがある。
(ジュネさんの手にかかるのなら、それも良いかなぁ) そうしたら絶対に忘れないでいてくれそうだと考えて、彼は思わず苦笑してしまった。 (ジュネさんを喜ばせる言葉は言えなくても、会って正直に自分の気持ちを言おう。
それで離れるのなら、多分そこまでの関係なのだから) そう自分を納得させた時、心が鈍い痛みを訴える。 瞬は胸を押さえた。 (本当ニ、ソレデイイノカ?)
辛い修行時代に自分を支えてくれた人が離れていくのを、黙って見送れるのか。 寂しくて悲しくて泣いていた時、彼女は黙って傍にいてくれた。 「あっ……」
不意に自分の目から涙が零れる。 その時、再びエリュシオンに風が吹いた。
『アンドロメダ、お前を落とすのは止めだ』
ハーデスがいきなり背後で、不穏な事を言う。 |