そして白羊宮でも、幼い頃に離ればなれになった師匠に今の現状を説明しなくてはならないムウが苦悩していた。
幼い時に師事していた教皇と今の姿が違いすぎて、物凄い違和感を感じるのである。 聖戦中は自分の精神状態も敵を倒すという事が最優先されていたが、今は警戒中ゆえに、色々な情報を取り込んで判断しなくてはならない。
(何故、若い姿で復活したのでしょうか??) 考えなくていい事だと判っていたが、やはり妙に気になってしまう。 するとシオンの方でも、弟子の苦悩が判ったらしい。
「余計な事を考えていると、それだけ時間を無駄にしてしまうぞ」 くだらない事は考えるなと、睨みを利かせる。 ムウは気を取り直した。 「実は、消滅したと思われたサガの邪悪な人格が、再び彼を支配してアテナに反逆を始めたのです。
アテナは我々にサガを捕縛するよう命じましたが……」 彼はどう説明しようか迷ったが、アイザックの方を見た後、思い切って告げた。 「黄金聖闘士が既に8人、彼と対決し消息を絶っています」
シオンはこの言葉に、親友の童虎もその中の一人であると気付いた。 しかし、取り乱したりせず視線をムウから逸らしただけだった。 そしてアイザックは椅子から立ち上がった。
「まさか師匠もですか!」 シオンは海闘士の少年を見た後、アルデバラの方を向いた。彼は素早くその意味を察する。 「教皇。彼は海闘士の海将軍の一人で、水瓶座のカミュの愛弟子です」
自分が紹介されている事を知って、アイザックはシオンに一礼した。 「聖域の教皇殿を前にして、挨拶が遅れて申し訳ありません。 俺はポセイドン様の配下で北氷洋を守護するクラーケンのアイザックです」
するとシオンも立ち上がる。 「丁寧な挨拶、痛み入る。 私はこの聖域で13年前まで教皇をやっていたシオンだ。 以前は牡羊座の黄金聖闘士をしていた」
そして彼は再び椅子に座る。 アイザックはムウの方を見た。 「私の師匠です」 彼は簡潔に、アイザックが持つであろう疑問に先に答えた。
そして二人は椅子に座り直す。 「ところでムウ。何故我々は再び聖域に、舞い戻れたのだ?」 シオンが尋ねた時、今度はアルデバランが椅子から立ち上がった。
「ムウ、もうそろそろ青銅の五人が目覚める頃だろう。 一応あいつらには俺から説明しておく」 そう言って、アルデバランはシオンに一礼すると部屋から出て行った。
アイザックは一瞬腰を浮かせたが、直ぐさま思い直した。 自分はムウから今の聖域の状態を詳しく聞き、海に戻った彼らに伝えなければならない。 地上と海がせっかく平和な関係が築けそうなのに、また修復不可能なところにまで戻ったら師匠や氷河と闘う事にもなり兼ねないからだ。
(海皇様の命令ならいざ知らず、思い込みによる誤解で血が流れるのは避けなければ) 闘いともなれば死力を尽くすが、だからといって血に飢えているわけではない。
(教皇殿がどういう人間か、拝見させてもらおう) 彼は二人の会話をじっと聞いていた。 |