ジュリアンがソレントに近付く。 そしてイオから彼を引き離して、こっそりと耳打ちした。 「ここは異世界だと思っていましたが、星座が変わらない所を見ると隠れ里だったみたいですね」
ソレントは一瞬にして真っ青になる。 「ジ……ジュリアン様!星が読めるのですか!」 「占星術は出来ませんが、海に出ると最後は自分の経験の方がモノを言いますから、幼い頃から星図で自分の位置の確認が出来る様、父から叩き込まれました」
海運商で財を成したソロ家では、今でも星で自分の位置を把握出来る様教育されている。 だからこそ、この家の人間は海に出ると最強の力を発揮出来るのである。
「今は道具が足り無いですから正確な場所は割り出せませんが、せっかくの異世界です。 皆さんの好意に甘えさせてもらいます」 海将軍として、ジュリアンが航海の専門知識を持っていることを気にも止めなかったのは、迂闊としか言い様が無い。
(ポセイドン様とは別の意味で恐ろしい方だ……) その時、イオは一人視線を別の場所に向けていた。 (何だあれは……)
道の外れで誰かが倒れているのである。 実はジュリアンに聖域の騒ぎを見せる訳にはいかないので、彼らは迂回する様な形で宿屋へと向かっていたのである。辺りには人の気配が無いので、もし自分達が通らなかったら、倒れている人はずっとそのままの確率が高い。
イオは慌てて、その人の元へ駆け寄った。 「おい!大丈夫か!」 「うぅぅ……」 「いったい誰にやられたんだ」 そうは言ったものの、明らかに聖闘士と判る男の聖衣は壊れていない。
身体だけが傷だらけなのである。 「イオ!もしかしてその人は……」 ソレントが駆け寄る。 「多分、俺達の様に復活を果たした聖闘士だろう。
ここに置きっぱなしにも出来ないから、宿屋へ連れて行くぞ」 海将軍が怪我した聖闘士を運ぶというのは、かなり誤解されそうだったが、今はそんな事を言っている場合ではない。
「どうしたんですか?」 ジュリアンが二人の元へやってくる。 「ジュリアン様、怪我人のようです」 ソレントとしては、あまりこのような場面を見せたくない。心の何処かでジュリアンがポセイドン出会った時の記憶が、このような場面で蘇るのではと思うからである。
だが露骨に引き離せば、ジュリアン自身が不信がる可能性が高い。 「大丈夫なのですか?」 ジュリアンが右手を伸ばした時、聖闘士と彼の右手の間に蒼い火花が散った。
「!」 ソレントとイオは驚いてジュリアンの方を見る。彼は自分の右手をじっと見た。 「静電気でしょうか?痛くはなかったですが……」 すると、話す事もままならなかった聖闘士が、ゆっくりと目を開けて不思議そうに三人の顔を見ていた。
「気がついたか!」 「貴方たちは……」 男の声にソレントがイオを離そうとする。 しかし、男はイオを見ても何の反応も示さない。 ソレントとイオはこの時、一つの結論に達した。
「もしかすると彼は海闘士を見た事がないのか?」 「つまり我々が宣戦布告する前に、この世界を去った聖闘士なんでしょう」 戦闘状態でもなければ名乗りも上げていないのだ。 聖域に海闘士がいるという事すら思いつきもしないのは仕方ない話である。
「貴方はここに倒れていたんです」 ジュリアンが男に話しかける。 「それはご迷惑をおかけした」 男は落ち着いた口調で、礼を言う。
「起き上がれるか?」 イオが手を差し伸べると、彼は素直にイオの手をとった。 「ありがとう。 私の名は、ダイダロス。 よかったら名前を教えてくれないか」
彼の穏やかな声に、ジュリアンとソレントは自己紹介出来たが、イオは自分をどう紹介しようか困ってしまった。 |