氷河は氷の大地に立っていた。 修行地のシペリアにようにも見えるが、どこか違う気がする。
そして誰かが自分の名前を呼んでいた。 (この声は……) 優しい女性の声が彼の耳に届く。 「マーマ!」 彼は慌てて周囲を見回す。
『氷河……』 彼から少し離れたところに、昔に事故で亡くなった母親が現れた。 「マーマ……」 彼女は氷河を叱りつけるかのように、厳しい表情をしていた。
氷河は母親に駆け寄ろうとするが、足が動かない。 『氷河。早く目を覚ますのです』 彼女はその腕に一人の少女を抱いている。 しかし、少女は透き通っており、まるで硝子細工のようだった。
彼はその少女が誰なのか、一目で判った。 「絵梨衣!」 大事な恋人の名を叫ぶ。 『この子の命はもうすぐ尽きようとしています。
私ではどれほど繋ぎ止めていられるか判りません』 母親の言葉に、彼は激しく動揺した。 「マーマ。絵梨衣に何があったんだ」 ところが徐々に彼女と少女の姿が薄くなる。
『氷河……。もう時間が……』 そして彼女は少女を抱いたまま姿を消した。 彼はようやく自由になった足で、母親の居た場所に駆け寄る。 「マーマ。絵梨衣!」
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