「力の性質の違いだ。 多分、あれは我々の方に近いのだろう。 とにかく俺たちは城へ帰るから、なるべく今回の事は穏便に済ませてくれないか」
ラダマンティスはカノンに向かって交渉を試みる。 「パンドラはこの事を知っているのか?」 カノンの質問に、彼はやや青ざめた。 後ろの二人はやはり平然としている。
どうやら三巨頭のうちの勇猛と称えられる男は、腹芸が苦手なようだった。 「まさか……、パンドラに黙ってこんな事したのか! あの男はお前たちを敵を見なすぞ」
カノンとシュラは驚きのあまり、二の句が告げられない。 度胸があるというか無謀というか。 「あぁ、それに関しては平気だ。 その覚悟がなきゃ、嫌がらせで蠍座と山羊座を助けたりはしないさ。
それより蠍座が未だに目覚めないというのは、かなり問題があるから早く連れ帰った方が良いぞ」 アイアコスに言われて、シュラとカノンは慌てた。 ミロの顔色は、かなり悪くなっている。
「急いで、聖域に連れて行こう」 カノンはミロを担いだ。 「ところで、カノンは何しにここへ来たんだ? 様子を見に来たのか?」 シュラに言われて、カノンは本来の目的を思い出した。
「そうだ!アイオロスを見かけなかったか。 あいつ、一人でこっちに来たはずだ」 その瞬間、シュラは駆け出した。 「おい、シュラ。その怪我で動き回るな!」
担ぐのは一人で十分だと余計な事を言おうとした時、シュラの動きが止まった。 ミーノスの手が動く。 「山羊座。せっかく助けたのに無駄に傷を負うつもりなら、助けた私があなたをバラバラにしますよ」
ミーノスは静かな闘気をみなぎらせている。 「シュラ、今は引くんだ。 態勢を建て直す。 聖闘士の命は女神アテナと正義の為に使ってこそだ。 無駄に戦い傷つく事は、アテナを悲しませる」
カノンの言葉が決定打だったらしく、彼はその場に膝をついた。 「シュラ?」 ミロを担いだまま、カノンは駆け寄る。 「どうした」
「大丈夫だ」 彼は立ち上がろうとするが上手く立てないらしい。 カノンは咄嗟にラダマンティスの方を向く。 「ラダマンティス。パンドラ宛に『正当性を示す嘆願書』を、教皇に書いてくれるよう頼むから、シュラに手を貸してやってくれ」
いきなり言われて彼は嫌だと言おうと思ったが、今はパンドラがアテナと一緒に行動している以上、反目するような真似をして彼女に不機嫌な顔をされるのは、もっと嫌だった。
「ラダマンティスが行きたくないのなら、俺が行くぞ。 ただし、報告書に関しては期待するな」 書く気がほとんどないアイアコスの立候補に、彼は決意を固めた。
「判った」 そう言って、ラダマンティスはシュラに肩を貸す。 「では、私たちは冥界の様子をみてきますから、パンドラ様が戻るまでに城に帰って来てくださいよ」
「報告書も忘れないでくれよ」 非常に勝手な事を言って、ミーノスとアイアコスはその場から姿を消した。 「お前って、絶対に貧乏クジを引くタイプだな」
カノンは自分で頼んでおきながら、失礼極まりない事を言う。 ラダマンティスはカノンを睨み付け、シュラは小さく笑った。 彼は三巨頭たちを見ていて、サガが偽の教皇をやっていた時の、自分とデスマスクとアフロディーテの関係を思い出したのである。
誰が似ているではなく、三人いると自分が必ず後始末をさせられるところに共感してしまったらしい。 |