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その世界は鮮やかな色を持ちながら、どこか白い空気が漂っていた。 彼は浜辺にいた。 海はとても穏やかで、静かだった。 しかし、彼の心は深い悲しみで海の青さが判らない。 (何でこんなにも悲しいんだ……) 星矢は自分で海を見ながら、何処か別の視点で自分を見ているような状態だった。 「ペガサス。ここにいたのですか」 女性の声で、星矢は背後を振り返る。 (星華姉さん!) 会いたくて仕方なかった姉が、そこに立っていた。抱きつきたかったが、身体が思う様に動かない。 (夢を見ているのか?) 仕方なく星矢は無理矢理動く事を止めた。 彼女は聖域の人間と、似た様な服を着ている。 (でも、この服装は……) 聖域の一般人の着ている服ではない。もっと位の高い女性の服装のように思えた。 そして星矢は自分の言葉に驚いた。 「ディケー様……」 (ディケー??確か正義の女神の名前と同じだな) 師匠である魔鈴の話を彼は少し思い出した。 (人間の事を最後まで信じてくれた女神が、何で星華姉さんなんだ??) 夢だと割り切るには、何処か懐かしい様な気がした。 「また、海を見ていたのですね」 彼女は悲しげな顔をする。 「……あの方を守りきれなかったのは事実です。 誰も俺を罰しないのなら、俺が自分を罰しようと思っています」 (何を言っているんだ??) 星矢はこの話が、何か危険なような気がしてきた。 だからと言って、ここから逃げられる方法など彼は知らない。 「それはいけません。 あなたのそんな姿を、あの方が喜ぶと思っているのですか!」 「では、ディケー様。貴女が俺を裁いてください。 あれは事故なんかじゃない。あの方は殺されたというのに、俺はその仇をとってやれない……」 彼の悔しさが星矢に痛い程伝わってきた。 (この人は誰か好きな人を亡くしたのか?) 絶望ともいうべき心の痛みに、星矢は息苦しさを感じた。 「……確かにあの方に関しての海皇のなさりようは、あまりにも酷すぎます。 では、ペガサス。あの方を探しますか?」 彼女の言葉に、星矢の心臓が早鐘を打つ。 (何だ?この話は……) 「何度でもこの世界に現れ、この地上を守りながら、あの方を見つけますか? あの方は海と地上が争わない世界を望んでいました。 闘い続ける事を宿命と覚悟するなら、私は貴方に協力しましょう。 私は貴方の身近な者となって、貴方を守り戦いへと導きます。 どうしますか?」 すると、星矢は何故かその言葉を嬉しいと感じた。 「構いません。俺は絶対に強くなって、今度こそあの方を守る!」 彼女はちょっと困った様に笑う。 「……アテナの聖闘士の言葉とは思えませんが、あの方を守る事はアテナを守る事ですから、良いのかもしれませんね」 その時、遠くで女性が自分たちを読んでいる声が聞こえた。 「あらっ、……に、この事が知れたら大変だわ」 彼女の向いた方を見ると、明らかに姉妹であると判る、彼女によく似た女性がこちらに向かって歩いてくる。 「ペガサス。これは私たちだけの秘密ですよ」 彼女は右手で彼の額に軽く触れた。 そして、優しい声でこう言ったのだった。 「さぁ、目覚めなさい」 |
その瞬間、星矢は現実の世界へと帰って来たのだった。 |