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目覚め 2

その世界は鮮やかな色を持ちながら、どこか白い空気が漂っていた。
彼は浜辺にいた。
海はとても穏やかで、静かだった。
しかし、彼の心は深い悲しみで海の青さが判らない。
(何でこんなにも悲しいんだ……)
星矢は自分で海を見ながら、何処か別の視点で自分を見ているような状態だった。
「ペガサス。ここにいたのですか」
女性の声で、星矢は背後を振り返る。
(星華姉さん!)
会いたくて仕方なかった姉が、そこに立っていた。抱きつきたかったが、身体が思う様に動かない。
(夢を見ているのか?)
仕方なく星矢は無理矢理動く事を止めた。
彼女は聖域の人間と、似た様な服を着ている。
(でも、この服装は……)
聖域の一般人の着ている服ではない。もっと位の高い女性の服装のように思えた。
そして星矢は自分の言葉に驚いた。
「ディケー様……」
(ディケー??確か正義の女神の名前と同じだな)
師匠である魔鈴の話を彼は少し思い出した。
(人間の事を最後まで信じてくれた女神が、何で星華姉さんなんだ??)
夢だと割り切るには、何処か懐かしい様な気がした。
「また、海を見ていたのですね」
彼女は悲しげな顔をする。
「……あの方を守りきれなかったのは事実です。
誰も俺を罰しないのなら、俺が自分を罰しようと思っています」
(何を言っているんだ??)
星矢はこの話が、何か危険なような気がしてきた。
だからと言って、ここから逃げられる方法など彼は知らない。
「それはいけません。 あなたのそんな姿を、あの方が喜ぶと思っているのですか!」
「では、ディケー様。貴女が俺を裁いてください。
あれは事故なんかじゃない。あの方は殺されたというのに、俺はその仇をとってやれない……」
彼の悔しさが星矢に痛い程伝わってきた。
(この人は誰か好きな人を亡くしたのか?)
絶望ともいうべき心の痛みに、星矢は息苦しさを感じた。
「……確かにあの方に関しての海皇のなさりようは、あまりにも酷すぎます。
では、ペガサス。あの方を探しますか?」
彼女の言葉に、星矢の心臓が早鐘を打つ。
(何だ?この話は……)
「何度でもこの世界に現れ、この地上を守りながら、あの方を見つけますか?
あの方は海と地上が争わない世界を望んでいました。
闘い続ける事を宿命と覚悟するなら、私は貴方に協力しましょう。
私は貴方の身近な者となって、貴方を守り戦いへと導きます。 どうしますか?」
すると、星矢は何故かその言葉を嬉しいと感じた。
「構いません。俺は絶対に強くなって、今度こそあの方を守る!」
彼女はちょっと困った様に笑う。
「……アテナの聖闘士の言葉とは思えませんが、あの方を守る事はアテナを守る事ですから、良いのかもしれませんね」
その時、遠くで女性が自分たちを読んでいる声が聞こえた。
「あらっ、……に、この事が知れたら大変だわ」
彼女の向いた方を見ると、明らかに姉妹であると判る、彼女によく似た女性がこちらに向かって歩いてくる。
「ペガサス。これは私たちだけの秘密ですよ」
彼女は右手で彼の額に軽く触れた。
そして、優しい声でこう言ったのだった。
「さぁ、目覚めなさい」

その瞬間、星矢は現実の世界へと帰って来たのだった。