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「審判役として、私もまた水を飲むよう言いつかっております」 「もしかしたら三種類混ざっているのかもしれないのよ!」 グラスの水は純粋な性質ではないのである。飲んだ瞬間、何がどう反応するのか予測は不可能。 地上に出なくても、何らかの作用を彼女に及ぼす事に何の不思議もない。 毒を煽れと言われているのも同然に聞こえた。 「やめろ!ユリティース」 パンドラがグラスに近付こうとするのを、エリスが止めた。 「エリス!」 「ここでエウリュディケーがグラスの水を飲まなかったら、ヘカテ様は試練そのものを放棄して眠りにつかれるかもしれない。 この試練の主導権はヘカテ様にあるのだ。 あの方がどんな方法を取ろうと、私たちは従わなくてはならない」 エリスの手厳しい言葉に、パンドラは思わず叫んでしまう。 「だが、ユリティースに何かあったら」 オルフェに逢わせる。彼女に対してはどんな償いでもしたい。 パンドラにとってその思いは闘士たちの蘇生と共に試練を成し遂げる為の心の支えだった。 彼女の瞳が涙で潤む。 「それが、私たちに与えられた闘士たちを蘇生させる最大の試練なのだろう」 それを言われると、パンドラはもう何も言えなかった。 「ユリティース……、すまない……」 パンドラはそう言うのがやっとだった。 「私の事ならご心配なさらないでください。 それにもしかすると、皆さん同じ泉の水を汲まれたのかもしれませんし」 楽観すぎる話だが、そう言う事が無い訳ではない。 「運良く三人ともヒッポクレーネーだったら、演奏会でもするか」 「……そうね。あの時の演奏会みたいに、上手く出来るかしら」 試練を始める前、緊張のなかでエウリュディケーを待っていた時にセイレーンのソレントと琴座のオルフェウスが奏でてくれたメロディが、沙織のなかで蘇った。 「それでは、一斉に飲むぞ」 そして彼女たちは、泉から汲まれた水を飲み干したのだった。 |