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「エウリュディケー! 持ってきたわよ」 「女神アテナ、ご無事で何よりです」 試練の審判は彼女から壷を受け取る。 「それでは、次に行う事をお伝えします」 そう言いながら、エウリュディケーは一つのグラスに三つの壷から少しずつ水を注いだ。 「実は皆さんが通られた道には、三叉に分かれた分岐点があったはずです。そしてその道の先には、それぞれ泉が用意してありました。 一つは忘却の力を持つレーテー河から引かれた泉。もう一つが記憶を司るムネーモシュネーの泉。芸術を司るヒッポクレーネーの泉です。 でも、これらの泉への道は常に変化していたので、皆さんがどの泉の水を汲んだのかは、私にも判りません。 次に皆さんにやって頂くのは、こちらのカードを選んでいただき、そこに描かれている壺の水を飲んでいただきます」 そう言って、彼女は両面が白い石版を三枚出した。 「壺の水を全て飲まれましたら、その証拠という事で壷を叩き割って下さい。 合計して水の量が多ければやり直しです。 しかし、水が少なければ試練は終了です。 その瞬間に、闘士の皆さんは全員蘇生されます」 行為は簡単だが、それに伴う責任と不安はかなり大きい。 「それから、この場では三種類の水は水でしかありません。 効果が出るのは皆さんが地上に戻ってからになります」 この説明にエリスは不敵な笑みを浮かべた。 「ムネーモシュネーやヒッポクレーネーの水ならいざ知らず、レーテーの水は全てを忘れてしまうぞ。 今まで自分が培ってきたものを賭けろということだな」 エウリュディケーは静かに頷く。 パンドラは驚いて壺の方を向いた。 確かに試練の内容に関しては女神ヘカテが主導権を持つと説明されたが、自分がレーテーの水を飲んだら、何もかもを投げ出す事になってしまいかねない。 一瞬、抗議の声を出しそうになったが、隣りで青ざめながらも沈黙している沙織を見て、その言葉を呑み込んだ。 不服は唱えない。 今、自分にとって一番重要なことは闘士たちの復活だからだ。 (自分がどうなろうとも、それ以上に大事な事は無いはずだ) パンドラは深呼吸をする。 エウリュディケーは説明を続けた。 「皆様はこれから起こるであろう事態を理解し承認されてから、水を飲まれると思っております。 だからこそ、他の神々はこの賭けに異論を唱える事は出来ません。 それでもし、皆様全員がムネーモシュネーかヒッポクレーネーの水を飲まれたのであれば、それは皆様の方に運があったという事です」 「確かにレーテー河の水まで用意したんだ。これで文句をいう者はいないだろう。 さっさと飲んで終わらせよう」 エリスは何の躊躇いもなく白い石版を一枚手にとった。 沙織とパンドラも手にとる。 その瞬間、白い石版に壺の絵が浮かび上がり、三人とも別の人が汲んだ水を飲む事になった。 「あのグラスは?」 沙織は、まさかと思いながらエウリュディケーに尋ねる。 「あれは、私が飲むものです」 彼女は優しく微笑んだ。 |