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パンドラは薄暗く細い洞窟を降りていた。 行けども行けども泉へは辿り着かない。既に自分がどれほど歩いたのか、見当がつかなかった。 (目的地が見えないと言うのは、結構不安になるな) ふと、ある事が脳裏をよぎった。 (ユリティースもオルフェの背中を見ながら、そう思ったのだろうか……) 恋人が振り返れば再び地上には戻れないという条件で、愛しい男と共に地上を目指す。 (……私は、なんて残酷な事をしてしまったのだろうか……) 弟が許可したというのに、愚かにも二人が地上へ帰る邪魔をした。 本当に弟の為だったのか。もしかすると弟が恐ろしくて、竪琴の名手を引き止めておきたかったのではないのか。 今思えば、私の勝手な行動を弟は黙認してくれていたのだろう。 (聖戦前に罪深い事を散々していたというのに、何て愚かな……) パンドラは腰に装備している黒い短剣に手をやる。 (ハーデス……。もしかすると私は冥闘士たちと一緒に、其方の目覚めを待てぬかもしれない) 彼女は自分と言う存在が許せなくなり、涙が溢れて止まらなくなった。 思わずその場にしゃがみ込む。 その時、彼女の耳に男性の声が聞こえた。 「ラダマンティス!」 彼女は慌てて立ち上がる。 周囲を見回したが、自分以外に人の姿は無い。 しかし、彼女の耳には懐かしい声が聞こえる。どうも三巨頭が何やら口論をしているらしい。 (まさか、ユリティースが……!) 心優しい審判役が自分を助けているのではと、彼女は咄嗟に思った。 「ユリティース! 私はもう大丈夫だ。手助けなどいらぬ」 彼女がそう叫んだ瞬間、三巨頭たちの声は聞こえなくなる。 再び静寂の世界に戻り、パンドラの心は落ち着きを取り戻した。 (私もいつか裁かれる。その時を待つ事にしよう……) パンドラはエリスの気持ちが、少しだけ判った様な気がした。 (ここで無様な真似をしたら、……に笑われる) そう思いながら、彼女の脳裏にはある男性の顔が思い出された。 (な……なんでラダマンティスを思い出すのだ……) 誰も見てはいないが、恥ずかしさのあまり頬が赤くなる。 (しかし、あやつらは何を騒いでいるのだ??) 彼女は無理矢理、冷静になる努力をする。 口論の原因はよく分からないが、どこかへ出かけようとしていたらしい。 (やはり、城の中で男三人は退屈なのだろう) 怪我さえしないでいてくれれば良いと、彼女は思った。 そして歩き続けて行くうちに道は三叉に分かれた。 (どれかを選べということだな) パンドラはそのうちの一つに進んだ。 |