INDEX

呼び声 3

パンドラは薄暗く細い洞窟を降りていた。
行けども行けども泉へは辿り着かない。既に自分がどれほど歩いたのか、見当がつかなかった。
(目的地が見えないと言うのは、結構不安になるな)
ふと、ある事が脳裏をよぎった。
(ユリティースもオルフェの背中を見ながら、そう思ったのだろうか……)
恋人が振り返れば再び地上には戻れないという条件で、愛しい男と共に地上を目指す。
(……私は、なんて残酷な事をしてしまったのだろうか……)
弟が許可したというのに、愚かにも二人が地上へ帰る邪魔をした。
本当に弟の為だったのか。もしかすると弟が恐ろしくて、竪琴の名手を引き止めておきたかったのではないのか。
今思えば、私の勝手な行動を弟は黙認してくれていたのだろう。
(聖戦前に罪深い事を散々していたというのに、何て愚かな……)
パンドラは腰に装備している黒い短剣に手をやる。
(ハーデス……。もしかすると私は冥闘士たちと一緒に、其方の目覚めを待てぬかもしれない)
彼女は自分と言う存在が許せなくなり、涙が溢れて止まらなくなった。
思わずその場にしゃがみ込む。
その時、彼女の耳に男性の声が聞こえた。
「ラダマンティス!」
彼女は慌てて立ち上がる。 周囲を見回したが、自分以外に人の姿は無い。
しかし、彼女の耳には懐かしい声が聞こえる。どうも三巨頭が何やら口論をしているらしい。
(まさか、ユリティースが……!)
心優しい審判役が自分を助けているのではと、彼女は咄嗟に思った。
「ユリティース! 私はもう大丈夫だ。手助けなどいらぬ」
彼女がそう叫んだ瞬間、三巨頭たちの声は聞こえなくなる。
再び静寂の世界に戻り、パンドラの心は落ち着きを取り戻した。
(私もいつか裁かれる。その時を待つ事にしよう……)
パンドラはエリスの気持ちが、少しだけ判った様な気がした。
(ここで無様な真似をしたら、……に笑われる)
そう思いながら、彼女の脳裏にはある男性の顔が思い出された。
(な……なんでラダマンティスを思い出すのだ……)
誰も見てはいないが、恥ずかしさのあまり頬が赤くなる。
(しかし、あやつらは何を騒いでいるのだ??)
彼女は無理矢理、冷静になる努力をする。
口論の原因はよく分からないが、どこかへ出かけようとしていたらしい。
(やはり、城の中で男三人は退屈なのだろう)
怪我さえしないでいてくれれば良いと、彼女は思った。
そして歩き続けて行くうちに道は三叉に分かれた。
(どれかを選べということだな)
パンドラはそのうちの一つに進んだ。