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呼び声 2

「……覚えてなくてごめんなさい」
美穂は素直に謝罪する。そんな事をする必要はないのかもしれないが、自分の言葉が羊を悲しませている様に感じた。
しかし、羊は怒ったりはしなかった。
「それでいいのだ。 忘れた昔の記憶など無理に思い出す事はない」
羊は空を見上げる。
そして羊はその形を歪めて、人間の男性へと姿を変えた。
美穂は、特に驚いたりはしなかった。なんとなく羊が人へと変化した事が、普通の事の様に思えたからだ。
(宗派は判らないけど、神父様みたい)
星の子学園の神父とは、もしかすると宗教そのものが違うかもしれないが、その雰囲気は何処か似ている気がした。
「さぁ、もう戻れ。 今度会う時は、お互いに覚えていないかもしれないがな」
彼は寂しそうに微笑んだ。
「あの!名前を教えてください。 私の名前は美穂です。美穂!」
彼女は男の服を掴むと、慌てて自分の名前を言った。
男は少し驚いたようだが、彼女の真剣な眼差しを受け取ると、静かに名乗った。
「私の名はシオン。 もし其方が私を覚えていたら、何か一つ贈り物をしよう。 この再会を祝して、記念になるようなものを……」
シオンは面白そうに笑った。
「それなら、シオンさんが私を覚えていたら、私も何かプレゼントをします。 え〜っと、たいしたものは用意出来ませんが……」
するとシオンは美穂の肩に手を置いた。
「其方が忘れないでいてくれた事に勝る贈り物はない」
そうしてシオンは金色の光に包まれると、美穂の前から姿を消した。
しばらく空を見上げていた美穂は、誰かが浜辺を歩いているのに気がつく。
(誰かな?)
現実感が無いので、特に警戒することもなく美穂はその場に居た。
そして白く輝く鎧をまとった少年が彼女の前に現れる。
(星矢ちゃん?)
銀河戦争の時に見た幼馴染みの姿に似ている気がするが、なんとなく違う気がする。
少年は美穂の顔をじっと見つめる。
「こ……こんばんは……」
彼女がドキドキしながら挨拶をすると、少年は嬉しそうに笑った。
そして彼は美穂の両肩を掴むと、彼女の顔に自分の顔を近づける。
(ええっ!ちょっと待って!!)
美穂は慌てて彼から離れようとして、現実世界に引き戻された。

「び、びっくりした〜」
あまりにも刺激的な夢だった為に、自分の心臓の音が聞こえる。
(何であんな夢を見ちゃったのかしら……)
正直言って欲求不満だとは思いたくない。
しかし、そのお陰なのか、シオンとの会話もその内容も鮮やかに思い出す事が出来る。
美穂は傍にある時計を手にとった。
(まだ横になってから、30分しか経っていない……)
彼女は溜息をついた。
雨はまだ降っている。