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「……覚えてなくてごめんなさい」 美穂は素直に謝罪する。そんな事をする必要はないのかもしれないが、自分の言葉が羊を悲しませている様に感じた。 しかし、羊は怒ったりはしなかった。 「それでいいのだ。 忘れた昔の記憶など無理に思い出す事はない」 羊は空を見上げる。 そして羊はその形を歪めて、人間の男性へと姿を変えた。 美穂は、特に驚いたりはしなかった。なんとなく羊が人へと変化した事が、普通の事の様に思えたからだ。 (宗派は判らないけど、神父様みたい) 星の子学園の神父とは、もしかすると宗教そのものが違うかもしれないが、その雰囲気は何処か似ている気がした。 「さぁ、もう戻れ。 今度会う時は、お互いに覚えていないかもしれないがな」 彼は寂しそうに微笑んだ。 「あの!名前を教えてください。 私の名前は美穂です。美穂!」 彼女は男の服を掴むと、慌てて自分の名前を言った。 男は少し驚いたようだが、彼女の真剣な眼差しを受け取ると、静かに名乗った。 「私の名はシオン。 もし其方が私を覚えていたら、何か一つ贈り物をしよう。 この再会を祝して、記念になるようなものを……」 シオンは面白そうに笑った。 「それなら、シオンさんが私を覚えていたら、私も何かプレゼントをします。 え〜っと、たいしたものは用意出来ませんが……」 するとシオンは美穂の肩に手を置いた。 「其方が忘れないでいてくれた事に勝る贈り物はない」 そうしてシオンは金色の光に包まれると、美穂の前から姿を消した。 しばらく空を見上げていた美穂は、誰かが浜辺を歩いているのに気がつく。 (誰かな?) 現実感が無いので、特に警戒することもなく美穂はその場に居た。 そして白く輝く鎧をまとった少年が彼女の前に現れる。 (星矢ちゃん?) 銀河戦争の時に見た幼馴染みの姿に似ている気がするが、なんとなく違う気がする。 少年は美穂の顔をじっと見つめる。 「こ……こんばんは……」 彼女がドキドキしながら挨拶をすると、少年は嬉しそうに笑った。 そして彼は美穂の両肩を掴むと、彼女の顔に自分の顔を近づける。 (ええっ!ちょっと待って!!) 美穂は慌てて彼から離れようとして、現実世界に引き戻された。 |
「び、びっくりした〜」
あまりにも刺激的な夢だった為に、自分の心臓の音が聞こえる。 (何であんな夢を見ちゃったのかしら……) 正直言って欲求不満だとは思いたくない。 しかし、そのお陰なのか、シオンとの会話もその内容も鮮やかに思い出す事が出来る。 美穂は傍にある時計を手にとった。 (まだ横になってから、30分しか経っていない……) 彼女は溜息をついた。 雨はまだ降っている。 |