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呼び声 1

美穂がようやく眠りにつく事が出来た時には、時計の針は既に午前1時を廻っていた。
外では先程から雨が降り出したらしく、雨音が聞こえる。
明日には近所に住む人が、ボランティアで手伝いに来てくれる事になった。
(早く寝なくちゃ……)
一生懸命に目を瞑るが、直ぐに眠れる訳ではない。
自分の周りから、次々と人が居なくなってゆく。 そう考えると、彼女は全ての原因が自分にある様に思えてくる。
(神様……)
心の中で神に呼びかけた時、彼女の脳裏に潮騒の音が聞こえてきた。
(?)
確かに海は近くにあるが、耳に聞こえてくるのではなく、頭の中で音が聞こえてくるのである。
目を開けようとするのだが、身体は金縛りに遭ったかの様に動かす事が出来ない。
(あっ!)
そして彼女の目の前に、深海のイメージが広がる。
窒息しそうなほどの鮮やかさに満ちた映像だった。
しかし、自分はそこから上へ上へと持ち上げられ、いつの間にかどこかの浜辺に辿り着いていた。

そこには一頭の黄金の羊が海を見ていた。どこか生き物の様であり彫像の様な感じがして、その存在の不思議さを感じる。
羊はゆっくりと自分の方へ視線を移す。
「また、会うたな」
彼女は羊が人の言葉を喋る事にも驚いたが、それ以上に自分を知っているという事にビックリした。
しかし、美穂の方はこんなにもインパクトのある知り合いはいない。
(これは夢なんだから、深く考えない方が良いわね)
とにかく話をしてみる事にする。
「こんばんは」
咄嗟に今は夜であると思っていたが、空を見てみるとまだ日が落ちたばかりのようだった。
星も見えるが、辺りはまだ暗くなっていない。
「元気そうで何よりだ」
羊は美穂の方へ近付く。
「どこかでお会いしましたか?」
やはり思い出せないので、彼女は申し訳なさそうに尋ねる。
すると羊は再び海の方を向いた。黄金の毛は実に暖かそうに見えた。
「覚えていないのなら、それも良いだろう。 あの時の其方は海を見て泣いていたからな」
羊の言葉に、美穂は首を傾げる。
(私が海を見て?)
最近の話なら、確かに幼馴染みの事を心配して泣いてしまった事もある。それも一度や二度ではないが、それでもその時に黄金の羊と遭った覚えはない。
「あの……、私は何で泣いていたのですか?」
変な質問だと、彼女は思った。
羊はずっと海を見ている。
「それは知らない。 私が尋ねた時に其方は何も言わなかった」
「そうですか……」
「そのかわりに、私の事を随分気遣ってくれた」
そう言われても、美穂には何の事か全然判らない。