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彼らの事情 2

西の大地に沈もうとする太陽を見ながら、ラダマンティスは自分の中の不安と苛立ちを必死になって堪えていた。
試練が終了すれば、他の冥闘士たちも復活する。
全てが元に戻ろうとしているのに、言い知れぬ不安が拭えずにいた。
(完全復活と同時に冥衣の力が浸食を始めるのではないだろうな)
エリスの言葉など信じなければ済む話なのに、何故か無視出来ずにいる。
彼は自分の右手を見た。パンドラの持っていた短剣によって付けられた傷は、既に回復していたが、あの時の彼女の表情が思い出された。
聖戦の時は近付く事すらほとんど出来なかった少女が、自分のすぐ傍にいて自分の怪我を心配してくれたのである。 夢を見ているのかと彼は思った。それもかなり都合の良い夢。
ならば醒める前に彼女にもう一度触れたい。
しかし、それは夢でない事は傷の痛みで判っていたし、そんな事は自分の立場が許すわけないのだから、最大級の理性で押しとどめた。
(俺とした事が……)
彼は右手の拳を握りしめる。
その時、部屋をノックする者がいた。この城には三巨頭しかいない。
「入っていいぞ」
そう返事したと同時に、ミーノスとアイアコスが部屋に入ってきた。
「二人ともどうしたんだ?」
この二人が揃っているという事に、ラダマンティスは不吉な予感がした。
「申し訳ありませんが、私とアイアコスはこれからデスクィーン島へ行ってきますから、パンドラ様が戻ってきたら上手く誤魔化して下さい」
ミーノスの話に、ラダマンティスは驚きを通り越して怒り出す。