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(ジュネは無事かしら……) 沙織は胸騒ぎがして仕方なかった。 (聖闘士がヘカテ様の神殿の行き方を知っているなんて、いくら考えても奇怪しいわ) 自分の知らないところで、何かが動いてしまっているのではないのか。 今はそれを確かめる術がない事が辛かった。 「アテナ。あの女聖闘士はムチを使っていたが、あれは武器扱いではないのか?」 本来、聖闘士は武器の使用は禁じられている。そう聞いた事のあるパンドラは、沙織に思い切って尋ねてみた。 「あれはね、どちらかというと道具扱いなの。瞬のアンドロメダのチェーンも同じ。 都合の良い話だけど、技で人を救うのは倒す事よりも大変なのよ……。 ジュネのムチ捌き、見たでしょ」 沙織に言われて、パンドラは妙に納得してしまった。 あの完璧な守りは、己の肉体だけで闘う者では到底難しいように思えたからだ。 しかも三人とも体力を削られる事なく、この部屋へ辿り着けたのだから文句は言えない。 「それから弓矢は狩りの道具でもあるから、これも禁止事項扱いにしていないわ」 「何故?」 「狩りは人間にとって重要な食事をとる為のものだもの。 獣を一匹狩るのに、技を使われたら森や大地が傷ついてしまう。 そういうことで敵を殺めるものとして使用するかどうかは聖闘士の裁量に任せているの。 私の方で武器と認めているのは、剣・槍・盾・双節棍・三節棍・トンファー。 そのうち最初の剣・槍はあからさまに武器。 私自身、この二つは嫌い。だから聖闘士たちには使わせない」 沙織の説明をパンドラは静かに聞く。 「盾は天秤座のモノだけ武器扱い。崩御力も破壊力も桁外れであると同時に、私と天秤座の黄金聖闘士が認めれば、どの聖闘士も使えるから。 他の聖衣に装備されている盾は所有者しか使えないから、防具の利用という事で武器扱いにはしていないわ。 後者の三つは、聖域の方から申請されて武器と認める事になった経緯があるの。 昔の聖域は東洋人の人たちはほとんどいなかったのだけど、ここ数百年の間に違う文化圏から来た人たちが聖闘士になる事があったから、そちらの文化圏に対応するようになったというわけ」 「なるほど。時代に合わせて少しずつ変化をつけたわけか」 「神代の頃からずっと変わらないでいると、逆に歪みが大きくなってしまうの。 神は変わらずにいるけれど、人は変わってしまうんですもの……」 沙織は寂しそうな顔をして俯いた。 その時、穴の中から鈴の音が響いてきた。 可愛らしいその音色はその場の雰囲気に似合わない。 「エリスからの合図だな。 次は私が行こう」 パンドラが穴の中へ入っていく。 沙織は部屋に一人取り残された。 |