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光の扉を抜けると、彼女たちはガラス張りのような黒い大地に辿り着いていた。 (ここは、ヘカテ様の管理する冥界に似ている……) 沙織はその大地を悲しい気持ちで歩き続けた事を思い出す。 (何もないのだな) パンドラはその光景を見るのは初めてだった。 マントの女性は身振りで三人を促す。 左手を見た沙織が無言で彼女にハンカチを差し出す。女性は躊躇いながらも、それを受け取ると素早く傷に巻いた。 その時、彼女たちは案内人が身にまとっているものが鎧である事に気付いた。 (まさか、聖衣じゃ……) 沙織はその疑問を確かめたかった。 しかし、喋ってはいけないと言われている為、彼女にそれを聞く事が出来ない。 (でも、何故……) 謎は深まるばかりだった。 しばらく歩くと急に角度を変えて歩きはじめた。彼女は再びジェスチャーでそれを伝える。 沙織とパンドラは怪訝そうな顔をしたが、エリスは言われた通りに動く。 ところが沙織とパンドラは少し離れていた為、彼女に近付こうと斜めに動いた途端、何もなかった筈の空間から、黒い異形の獣が沙織たちに飛び掛かった。 「あっ!」 そして、その場に強烈なムチの一撃が響く。 沙織の目の前で獣は霧散した。 「……」 案内人である女性が、そのムチで黒い獣を追い払ったのである。 「貴女は、カメレオン座の……」 マスクをした女聖闘士は沙織の前で片膝をつく。 「アテナ、今の騒ぎでいずれここに女神ヘカテを守る者たちがやってきます。 これからは私から離れずについてきてください」 彼女は素早く立ち上がる。 「待って!」 沙織が彼女の腕を掴もうとするのを、エリスが止めた。 「もう喋るな。今は向こうの言う通りにしろ」 パンドラもエリスの言葉に頷く。 そして四人はやや早い足どりで、冥界の大地を移動した。 その間にも、何度か黒い獣が一行に襲いかかったが、そのつどジュネがムチで獣たちを追い払う。 その完璧とも言えるムチ捌きに、パンドラは心の中で感心していた。 (綺麗なものだな……) 三人が外敵に対して不安に思う事は、何一つなかった。 |