☆ | ☆ |
真夜中の五老峰では、春麗が無理矢理眠ろうと努力している。 しかし、不安と悲しさで眠りにつけない。 その時、小さな物音に気付いた。 (何かしら……) 隣で眠っていた貴鬼も起き出す。 「オイラ、ちょっと様子を見てくるよ」 彼は素早く部屋を出た。春麗も上着を肩に掛けると、部屋を出る。 その時、貴鬼とエスメラルダの話し声が彼女の耳に届いた。 「お二人を起こして、すみません」 寝つけずにいた彼女が、外へ出ようかどうか迷っていて、物音を立ててしまったらしい。 エスメラルダが申し訳無さそうに肩を落としているのを見て、春麗は何だか彼女が可哀相に思えてくる。 「それじゃぁ、ちょっと散歩しましょう。 私はちょっと精霊さんの様子を見てきます。 貴鬼ちゃんはエスメラルダさんを大滝の方へ案内してあげて」 「判った。ゆっくり案内するよ」 貴鬼はエスメラルダの手を取る。 「春麗は後から来るから、先に行こう」 「はい」 エスメラルダは嬉しそうに笑った。 春麗は自分の部屋へ向かうと、依然眠り続ける女性を見た。 どうやら貴鬼はこの女性について何かを知っているらしいが、自分に言わないところをみると聖域関係者なのかもしれない。 「精霊さん。ちょっと今から散歩に行ってきます。 直ぐに戻ってきますから、心配しないでくださいね」 明日になればエウリュディケーがやってきて、二人を引き取る事だろう。 (一度くらいお話をしてみたい気がするけど、無理かしら……) 春麗は部屋を出る前に、もう一度彼女の方を振り返る。 彼女は変わらずに眠り続けていた。 |