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届かぬ想い 4

彼は黒い世界に立つ。 そこには闇があり、静寂があった。
彼は双子座の聖衣に何処か似た闘衣をまとっている。
しかし、それはそっくり同じではなく、しかも暗黒の色をしていた。
(エリスは依代の中に入った。これでしばらくは大人しいだろう)
彼女が自分のもとへ再び現れたのは、好都合としか言い様がない。
もし、また邪魔をしようと言うのなら、女神としての能力はともかく、運動能力が一般の少女と何ら変わらないのだ。今度こそ仕留めればいいだけの事。
本当は止めを刺したかったが、これは自分の中にいるサガが邪魔をする為、成し遂げられなかった。
そしてサガに自分の本名を呼ばれるのは非常に不快だった。
(その名はもう私のものではない……)
本当の名前が自分に与えるものは、優しい人々と暮らしていた時代の記憶。
今の自分がとうに捨ててしまったと思った感情が、心に染みだそうとする。
その気持ちに自分が囚われそうになった時、その隙をつかれて、エリスは海皇の依代を連れて逃げてしまった。
(サガは私と対決する気でいる)
自分の中にいる良心という存在が、今回は強力に抗う。
(無駄な事を……)
彼はそう思った時、自分の目から涙が零れている事に気がついた。
(既にテティスは処分した。弟が私を許すと思うか?)
しかし、涙は止まらない。 彼も無理矢理止めようとはしない。
(アテナ……。今度こそ貴女の望みを叶えよう)
彼は泣きながら優しい笑みを浮かべた。