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癒えぬ傷 5

「そのような事が起こっていたのか」
ハインシュタイン城で待っていたパンドラに、沙織は昨日の出来事を話した。
全てを話した。
彼女に隠し事をしたところで傷は大きくなるだけで、いずれその傷は聖域と冥界の関係を悪化させる。
そうなればその傷は、再び人の血を求める事が容易に想像がついたからだ。
沙織にとって、辛く悲しい告白だった。口は重く、胸の中に広がる不安は今にも自分を押しつぶしかねない。
パンドラは沙織の持ってきた服に着替えているので、この部屋には女性は二人しかいない。
カノンは別の部屋で二人が部屋から出てくるのを待っている。
「よく分かった」
パンドラは沙織のほうを振り向かずに、ベルトを締めながら答える。
「パンドラ……」
「起きてしまった事をとやかく言うまい。あの少女たちは、今は行方不明の段階だろ」
彼女は沙織を見ない。
「聖域でも探しているわ。 エウリュディケーに尋ねたら、冥界へは来ていないって……」
「ユリティースが言うのなら、そうなんだろう」
彼女の名を口にして、パンドラは心が痛んだ。
しかし、沙織に悟られないように無表情を決め込む。
「それなら聖域の混乱は聖域でカタをつけろ」
沙織は目を赤くしながら頷いた。
「但し、双子座が攻撃しに来た時は、遠慮なく冥界へ送る。後で文句を言うな」
彼女は短剣の入ったホルダーを腰に装着する。 そしてパンドラは着替えを終えたのだった。
「しかし、エリスが目的の神殿を知っていて助かったな」
沙織が来る少し前に、パンドラもエウリュディケーの訪問を受けている。
その時の三巨頭たちは、彼女を見て少なからず驚いていた。