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警察の事情聴取から解放された時には、美穂はこれ以上に無いくらい疲労困憊していた。 既にジュリアンの友人が誘拐されている為、連続誘拐の可能性も考えられている。 「神様……」 美穂は教会の祭壇の前で祈りを捧げる。 「お願いします。みんなを守って下さい」 以前、絵梨衣が行方不明になった時は、星矢たちが連れ帰ってくれた。 誰も何も言わなかったが、みんなの様子から沙織お嬢様に関わる事態だったのは推測出来る。 (絵梨衣ちゃんが今も悪夢にうなされている事を、氷河さんは多分知らない……) 彼女は心配をかけまいと自分にも言わずにいるが、その姿がいっそう痛々しかった。 不安と何も出来ない事への苛立ちで、美穂は涙を堪える事が出来なかった。 (星矢ちゃん……) どれだけ涙を流せば、祈りが天に届くのか。 外では夕方まで晴れていた空に、雨雲が立ちこめ始めている。 |
同じ頃、春麗は五老峰の大滝の前で、ぼんやりと水の流れを見ていた。 「春麗、ここにいたんだ」 貴鬼が駆け寄る。 「お祈りしていたの?」 「……違うの……」 彼女はたった一人で散々泣いた夜に、自分の心を傷つけてしまった。 祈る事しか出来ない自分を許せなくなってしまったのである。そして、紫龍に側にいて欲しいと願った自分を嫌悪し始めていた。 彼女は悲しそうに俯く。 そして紫龍も老師も絶対に生きていると信じてはいる。 でも、何の連絡もないということは、もしかしたらとも考えてしまい、連絡が来ることを怖がっている自分がいることにも気がついた。 (もう、やだ……) 自分が何をしたいのか。どう思っているのかが判らない。 中途半端は嫌なくせに、はっきりした事が判るのも嫌という葛藤は、彼女の心を酷く締めつける。 「ねぇ、貴鬼ちゃん。 貴鬼ちゃんはムウ様が戻って来るって、信じているんでしょ」 実際に条件付きだが戻っている姿を見ているので、貴鬼はどう返事しようか迷った。 「う、うん。 ムウ様は絶対に戻ってくると思っているよ。 だってムウ様は強いもん」 こんな返事で良いのだろうかと、彼は非常に緊張していた。 「そうだね。ムウ様は強い方だもんね」 春麗が泣きそうな顔をしていたので、貴鬼はぎょっとした。 「春麗、オイラがついているから泣かないで」 精一杯慰めてみるが、彼女は顔を両手で覆ってその場にしゃがみ込んだ。 その時、背後に人の気配。貴鬼は後ろを振り向いた。 |
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