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癒えぬ傷 4

警察の事情聴取から解放された時には、美穂はこれ以上に無いくらい疲労困憊していた。
既にジュリアンの友人が誘拐されている為、連続誘拐の可能性も考えられている。
「神様……」
美穂は教会の祭壇の前で祈りを捧げる。
「お願いします。みんなを守って下さい」
以前、絵梨衣が行方不明になった時は、星矢たちが連れ帰ってくれた。
誰も何も言わなかったが、みんなの様子から沙織お嬢様に関わる事態だったのは推測出来る。
(絵梨衣ちゃんが今も悪夢にうなされている事を、氷河さんは多分知らない……)
彼女は心配をかけまいと自分にも言わずにいるが、その姿がいっそう痛々しかった。
不安と何も出来ない事への苛立ちで、美穂は涙を堪える事が出来なかった。
(星矢ちゃん……)
どれだけ涙を流せば、祈りが天に届くのか。
外では夕方まで晴れていた空に、雨雲が立ちこめ始めている。

同じ頃、春麗は五老峰の大滝の前で、ぼんやりと水の流れを見ていた。
「春麗、ここにいたんだ」
貴鬼が駆け寄る。
「お祈りしていたの?」
「……違うの……」
彼女はたった一人で散々泣いた夜に、自分の心を傷つけてしまった。
祈る事しか出来ない自分を許せなくなってしまったのである。そして、紫龍に側にいて欲しいと願った自分を嫌悪し始めていた。
彼女は悲しそうに俯く。
そして紫龍も老師も絶対に生きていると信じてはいる。
でも、何の連絡もないということは、もしかしたらとも考えてしまい、連絡が来ることを怖がっている自分がいることにも気がついた。
(もう、やだ……)
自分が何をしたいのか。どう思っているのかが判らない。
中途半端は嫌なくせに、はっきりした事が判るのも嫌という葛藤は、彼女の心を酷く締めつける。
「ねぇ、貴鬼ちゃん。 貴鬼ちゃんはムウ様が戻って来るって、信じているんでしょ」
実際に条件付きだが戻っている姿を見ているので、貴鬼はどう返事しようか迷った。
「う、うん。 ムウ様は絶対に戻ってくると思っているよ。 だってムウ様は強いもん」
こんな返事で良いのだろうかと、彼は非常に緊張していた。
「そうだね。ムウ様は強い方だもんね」
春麗が泣きそうな顔をしていたので、貴鬼はぎょっとした。
「春麗、オイラがついているから泣かないで」
精一杯慰めてみるが、彼女は顔を両手で覆ってその場にしゃがみ込んだ。
その時、背後に人の気配。貴鬼は後ろを振り向いた。