彼が目を開けると、そこは石造りの建物の中。 闇色の髪の男が、自分から離れた場所で少女を片手で持ち上げている。彼女は意識を失っているのか動かない。
床に転がされているジュリアンは、身体を動かす事が出来ずにいた。 (私は夢を見ているのか? あの青年は……) 何か頭の中がぼんやりしていて、目の前の光景に対して驚く事も立ち上がる気も起きない。
男の視線は別の場所にいる女に向けられており、彼らは自分の存在に気がついていないかの様に思えた。 (これは……夢なのか……) 男に対峙している女は、妙に落ち着いていたように見える。
「……やはり依代に目をつけたか」 (依代?) ジュリアンはその言葉が妙にはっきりと聞こえた。 「エリス、貴様は危険すぎる」
「双子座に依代の事を依頼した時、お前が聞いている気がしたが、本当に私に宣戦布告するつもりらしいな」 「貴様に動かれては迷惑だからな」
男はそう言って、少女を女の方に投げたのである。 (エリイさん!) ジュリアンは手を伸ばそうとしたが、やはり身体は言う事を聞かない。 女が絵梨衣を受け取る。
その時彼女の表情が、何かの痛みに堪えているかの様に見えた。 男は右手を高く掲げた。 「これで衝撃を与えれば貴様は依代と同化してしまうはずだ。
依代を捨てれば、助かるぞ。犠牲はその小娘だけで済む」 (やめなさい!!) ジュリアンは事の凶悪さに急いで身体を動かそうと努力したが、やはり何かに縛られているかの様に動けない。
「私が助かる道を教えてくれるとは、随分親切な奴になったな。射手座を見習う事にしたのか?」 その瞬間、男の身体から闘気が溢れだす。 「さらばだ。女神エリス」
そして男はそのまま振り下ろしたのである。 溢れるばかりの光と轟音が起こったかと思うと、ジュリアンは目の前が真っ暗になった。 |