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回想 6

「分からないの……。何かを思い出そうとすると、どうしても思い出せなくて。
不安で仕方ないのに誰かがそれを考えてはいけないって、言っているの……」
カノンは自分の見たテティスの姿を思い出した。
(まさか俺は何かを忘れているのか?)
しかし、テティスの年齢が合わない。
(テティスも姉がいるなどという話は一度もしていないし……)
いくら考えても謎は謎のままだった。
「では老師、アテナの事を宜しくお願いいたします」
ムウとソレントはカノンの両腕を掴むと部屋から出た。カノンは半分引きずられるかのようであった。
「アテナ、ここはワシがおりますから、どうかお休みくだされ」
「でも……」
「それとも何か昔話でもした方が、良いかのぉ」
そう言われて沙織は小さく笑った。
しばらく何か考え事をした後、彼女は思い切って尋ねた。
「ねぇ童虎。どうして春麗さんを育てようと思ったの?」
いきなりの質問に、童虎は何事かと沈黙してしまう。
「あのね、そんなに驚かないで。私、日本で数える程しか会っていないの。
だから彼女の事は紫龍からの情報が、ほとんどなの」
何故だか言い訳染みていると、沙織は思った。
「紫龍は何と言っておりましたかな?」
(もしかして、聞いてはいけない事だったのかしら……)
童虎の表情がやや固い。彼女は何か紫龍に謝りたい気持ちでいっぱいだった。
「そうね。素敵な女の子だって言っていたわ」
「そうですか」
「でも、よく女の子を育てる決意をしたわね。当時の聖域から反対されなかった?」
そう聞かれて、童虎は腕を組んだ。
「実は反対さておりました。春麗を拾ったのはアテナが降臨される前で、それはもうシオンが煩かった」
「そうなの?」
「お前に子育ては無理だの、女の子は難しいだの、年頃になった時、結婚の申し込みに来た男を叩きのめしかねない等、それは毎日が大喧嘩……」
思い出しては呆れた顔をする童虎を見て、沙織はくすくす笑った。
「毎日って?」
「実は、あの男はアテナが降臨される前は、ほぼ毎日のように自分の執務が終わると五老峰にやって来ていたのじゃ。
こっちは真夜中だというのに、赤ん坊の春麗の顔を見てからワシに文句を言って、それからムウのところへ行くという生活をやっておった」
暇だったのか忙しいのか判らない生活習慣である。