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回想 5

暗い部屋の中に彼女は立っていた。
伝令で双子座のサガの異変を聞かされた時、正直言って彼女は心の中で奇妙な興奮を覚えた。
(ようやく、カシオスの仇が討てる)
シャイナは大事に育てた弟子の姿を思い出す。
殺意も悪意も感じさせないサガは仇ではない。
だが彼の中の邪悪な人格が表に出た時は、話は別だった。
彼女は部屋を出ると、聖域の闇の中へと消えた。

何処からかフルートの音色が聞こえる。とても悲しく寂しい。
(ごめんなさい……ごめんなさい……)
誰だか分からない女性に向かって泣いている自分がそこにいる。
沙織は何かを叫ぼうとして、夢から覚めた。
「ここは……」
耳に心地よい音色が聞こえる。
「アテナ、気が付かれましたか……」
童虎はほっとした顔になった。
「ここは双児宮です」
ムウも心配そうな顔をしていた。
「神殿からアテナの悲鳴を感じ取った時は、心臓が止まるかと思いましたぞ」
「老師が連れてきたんです。
神殿で何かあったと思いましたし、秘密の出入り口の多い部屋に居させるのは大問題ですから、失礼とは思いましたがお連れしました」
ムウの説明に彼女は肩を落とした。
「ごめんなさい」
そこへカノンが飲み物を持って入ってきた。
「ここには気の利いた飲み物がないから、魔鈴のところまで行ってきたぞ」
「それはご苦労さまです」
ムウは勝手に奥の部屋へ行って、グラスを用意した。
カノンが魔鈴に何を言ったのか分からないが、用意された飲み物は温かいレモネードだった。
沙織はそれを受け取った。手の中に温かさが広がる。
「気が付かれましたか?」
ソレントが部屋の中へ入ってきた。いつの間にか演奏は終わっていたらしい。
「もしかして、さっきの音色はソレントのものだったの?」
「はい……。やはりオルフェウスたちに聞かせたくなりまして…… それに仲間たちの事を思うと……」
それは光に還った者への追悼。そして、今は会えない仲間たちへ。
どこか悲しかったのは、その為なのだと彼女は納得した。
「いったい何があったんじゃ?」
童虎は沙織の隣に座ると、その顔を覗き込んだ。
まるで小さな子に話しかけるような優しい言葉づかいである。