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暗い部屋の中に彼女は立っていた。 伝令で双子座のサガの異変を聞かされた時、正直言って彼女は心の中で奇妙な興奮を覚えた。 (ようやく、カシオスの仇が討てる) シャイナは大事に育てた弟子の姿を思い出す。 殺意も悪意も感じさせないサガは仇ではない。 だが彼の中の邪悪な人格が表に出た時は、話は別だった。 彼女は部屋を出ると、聖域の闇の中へと消えた。 |
何処からかフルートの音色が聞こえる。とても悲しく寂しい。 (ごめんなさい……ごめんなさい……) 誰だか分からない女性に向かって泣いている自分がそこにいる。 沙織は何かを叫ぼうとして、夢から覚めた。 「ここは……」 耳に心地よい音色が聞こえる。 「アテナ、気が付かれましたか……」 童虎はほっとした顔になった。 「ここは双児宮です」 ムウも心配そうな顔をしていた。 「神殿からアテナの悲鳴を感じ取った時は、心臓が止まるかと思いましたぞ」 「老師が連れてきたんです。 神殿で何かあったと思いましたし、秘密の出入り口の多い部屋に居させるのは大問題ですから、失礼とは思いましたがお連れしました」 ムウの説明に彼女は肩を落とした。 「ごめんなさい」 そこへカノンが飲み物を持って入ってきた。 「ここには気の利いた飲み物がないから、魔鈴のところまで行ってきたぞ」 「それはご苦労さまです」 ムウは勝手に奥の部屋へ行って、グラスを用意した。 カノンが魔鈴に何を言ったのか分からないが、用意された飲み物は温かいレモネードだった。 沙織はそれを受け取った。手の中に温かさが広がる。 「気が付かれましたか?」 ソレントが部屋の中へ入ってきた。いつの間にか演奏は終わっていたらしい。 「もしかして、さっきの音色はソレントのものだったの?」 「はい……。やはりオルフェウスたちに聞かせたくなりまして…… それに仲間たちの事を思うと……」 それは光に還った者への追悼。そして、今は会えない仲間たちへ。 どこか悲しかったのは、その為なのだと彼女は納得した。 「いったい何があったんじゃ?」 童虎は沙織の隣に座ると、その顔を覗き込んだ。 まるで小さな子に話しかけるような優しい言葉づかいである。 |
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