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沙織はサガの置いていった双子座の聖衣の前に立つ。 「何故……」 彼女の思考は停止寸前だった。 神殿は跡形も無くなっており、屋根どころか壁も無くなっている。 神官や女官たちは雑兵たちによって丁寧に運ばれていく。運良く死者はいなかった。 行方不明者がいるだけである。 呆然としている彼女の耳にカノンの声が届く。 「セイレーン、起きろ!」 彼がその頬を思いっきり叩こうとするのを、ソレント自身が止めた。 「そんなに怒鳴らないでください」 その声を聞きつけて、アイオリアとカミュが駆け寄った。 「セイレーン!あのバカ兄は何をしでかしたんだ!」 「兄もここにいたのか!!」 「教えてくれ!アイザックはどうなったんだ!」 いきなり話しかけられて、彼は何が何だか分からず辺りを見回す。 周囲には海と浜辺と床しか無くなった神殿。 「みんなは……、アルデバランさんはどうしたんですか!」 ソレントはこの惨状の説明を求めて、逆にカノンに詰め寄った。 「それはこっちが聞きたい! エリスは消えるし、いったい何があったんだ」 ソレントは頭を押さえる。何故、自分が無事なのか。 考えられるのは女神ヘカテの力により、自分の鱗衣が修復された事。 (あれで私だけ助かったのか?) 「セイレーン、覚えている事で良いの……。何があったの?」 沙織が不安げな表情で声を掛けた。 「アテナ……、それが本当に一瞬の事で……」 彼は記憶をたぐるように話しはじめる。 「朝方、テティスが『海に帰りたい』と小さく呟いたので、アルデバランさんがもう一人の少女を連れて、ここへ案内してくれたんです。テティスはクラーケンが連れてきました。 その時、偶然にも海将軍の四人がここに来ていて、私とクラーケンは彼らにこっちの状況を説明をしました。 アルデバランさんはここの神官たちに指図をしたりしていたのですが、しばらくして何の前触れも無く、双子座の黄金聖闘士が私たちのいる部屋に入ってきたのです」 全員がソレントの話を聞いていた。 「彼は『賊が侵入した』とか言ってテティスの傍へ寄ったのです。 でも、後から来た射手座の黄金聖闘士が、私たちに彼からテティスと少女を引き離せと叫んだ瞬間、物凄い衝撃を感じて……。 その後の事は分かりません」 ソレントは思い出すのも辛そうに、沙織から視線を逸らした。 「あのバカ……、何をやっているんだ」 カノンは両手の拳をきつく握った。 アイオリアとカミュは、沙織の前なので激しく動揺した素振りは見せていないが、逆に身動きが取れなくなっているのではと思えるほど、身体が硬直していた。 話を聞き終えた彼女の瞳に、強い光が宿る。 「カノン、今から双子座の聖衣をまとい、黄金聖闘士として行動しなさい」 沙織の声に、その場にいた黄金聖闘士たちは一斉に片膝を付き、頭を下げた。 それは少女の普段の声ではなく、戦の女神が聖闘士たちに命じるモノだったからである。 カノンも反射的にそういう行動を取っていた。 ソレントは立ち上がり、ただ非礼にならないよう沈黙していた。 「明日の試練の終わりを待っている時間はないようです。 サガを直ぐに見つけ出しなさい。 前のように冥界へ逃げられるような真似はさせないように。 ムウとカノンと童虎は十二宮にいる事。何かあれば他の黄金聖闘士たちのサポートをしなさい」 沙織の命令に、他の黄金聖闘士たちは深々と礼をした後、その場を立ち去った。 (今度こそ決着をつけます) 沙織は何も無くなった神殿跡を見つめた。 |
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