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夜が明けた頃、ハインシュタイン城ではパンドラが目を覚ました。 弟との出会いも別れも無かったかのように、城は昔のままであり、室内の中には両親との思い出が見え隠れしている。 (どちらが悪い夢なのだ?) ハーデス軍の総司令官だった自分が永すぎて、まるで他人の家にいるような気がしないことも無い。 昨日、エリスにデスクィーン島へ連れて行かれた時、彼女は正直言ってほっとしていた。 (両親を慕って泣けば、少しはハインシュタイン家の娘でいられただろうが……) パンドラは肌身離さず持っている短剣を、手に取る。 「ハーデス……」 彼女は短剣を両手で持つと、剣に祈りを捧げた。 そしてハインシュタイン城のとある部屋で、仮眠をとっていたラダマンティスが悪夢によって叩き起こされた。 (パンドラ様!) 自分の手をじっと見る。 夢の中で彼の手はパンドラの血で汚れていた。 『冥王のいない今、冥衣の力が人間を蝕む様を見られるかと思った』 争いの女神の言葉が脳裏に蘇る。 (負ける訳にはいかない……) それが冥闘士の宿命というのなら、彼は永遠に戦い続けるつもりだった。 自分が冥衣を制御出来なければ、他の冥闘士が力に蝕まれた時に彼女を守りきれないからである。 (たとえ全ての闘士たちを滅ぼす事になっても……) 彼は少女らしい仕種をしはじめた自分の主の顔を思い出す。 異常とも言える環境下にいた彼女に、どれだけの事が自分に出来るのか判らない。 それでも彼は、傍にいる事を許されている限りは彼女を守り続けたいと思った。 |
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