INDEX

予感 1

「余計な事をしおって」
エリスは不機嫌な顔をすると、神殿の階段を下りはじめた。
肩にはまだシュラとデスマスクのマントが掛かっている。
「すまんのぅ。やられっぱなしは、性に合わんのじゃ」
隣りを童虎が歩く。
「あいつらの事だ、きっと余計な事も言ったのだろう」
「何も言っとらんよ。 言ったとしても、ワシは聞いていない」
エリスは口の中で何かを呟くと、その場から消えた。童虎は別に驚きもせずに天秤宮へ向かう。
そして残されたメンバーには問題が残されていた。
ちなみにアフロディーテはワイングラスを置いてくると言ったきり戻ってこない。
「それで、夜通しワインを飲んでいたのか。」
これにはアイオロスの目が険しくなっている。
「いい気なものですね。さぞかし盛り上がったことでしょう。ディオニソス特製のワインなら」
ムウの目が据わっている。カノンに至っては、指を鳴らしていた。
「何言っているんだ。女が酒に付き合えと言っていたんだ。付き合うのが男ってものだろう」
「それなら私の説教にも付き合ってくださいね」
いきなり沙織の声がして、デスマスクは思いっきり驚いた。
彼女は先程カミュとアフロディーテから借りたマントを羽織っている。
そして、彼女は目を赤くしていた。まるで先程まで泣いていたかのように。
(また、秘密の出入り口を使われたな)
気配を殺して黄金聖闘士たちに近づくのだから、やはりアテナは偉大だった。
「アテナ、お目覚めになられたのですか……」
サガは万事窮すとばかりに天を仰ぐ。
「みんなが集まって騒いでいれば、嫌でも起きます」
そして沙織は俯く。
「その……彼らは?」
彼女はそれ以上の言葉を紡げなかった。
「アテナとこの聖域に、祝福の光が降り続きますように……。そう申していました」
サガの言葉に沙織は大粒の涙を零しはじめた。
「そうですか……。彼らがそんなことを……」
彼女は泣きながらも嬉しそうに微笑んだ。
そして、彼女はあることをサガに尋ねた。
「それでディオニソスのワインは美味しかったですか?
当然、私の為にも取っておいてくれたでしょう」
サガたちは一度もそんなことを考えていなかったので、思いっきりうろたえる。
「アテナ、貴女はまだ未成年です」
アイオロスが間髪入れずに、彼女をたしなめる。
「それに、そのセリフは私たちが言うべきものです」
(アイオロス、正直すぎる!)
他の黄金聖闘士たちは、思わずアイオロスから離れた。
「だって、ワインゼリーにしたら食べても良いでしょ!」
沙織は彼の説得を試みる。既に兄と妹の会話になっていた。
「お抱えのパティシエに頼んで、ワインを使ったケーキって手もあるわ!」
アイオロスは頭が痛くなってきた。
他の黄金聖闘士たちに至っては、聞かなかった振りをしている。