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隠し事 2

白羊宮に入ると、沙織はテティスと少女をアイザックとアルデバランに託す。
「アイオロスとサガとカノンはこっちの部屋よ」
ソレントは一礼をすると金牛宮へ向かった。
「やっぱり負けたか」
入り口に槍を持った女性の姿。
「エリス」
沙織は嬉しそうな表情で、駆け寄る。
「ピクニックの途中で倒れる程ひ弱なのだから、神殿で寝ていろ」
意地悪な女神は容赦なかった。
「何よ!あの時は頭が痛くなっただけよ」
「それなら大事を取っておけ。試練の時に倒れられたら、面倒だ」
「体調には注意しておくわ。でも彼らの話は絶対に聞くわよ」
沙織はこれ以上の問答はしないと言わんばかりに、部屋の中へ駆け込んだ。
「聞けるものならな」
エリスは挑発的な眼差しで、沙織の後ろ姿を見る。 そして彼女も部屋の中へ入った。

「アテナ、一応人は選んだようだな」
部屋の中にいた黄金聖闘士は、ムウ、サガ、カノン、童虎、アイオロスの五人だった。
「必要なら全員呼ぶわよ」
しかし、それはムウに止められた。理由は『収拾がつかなくなる』
今でも十二人が一つの部屋にいるのである。まるで秘密会議のようだった。
「それでは、まず我々のいた時代の説明をしますと、この中で一番古いのが魔矢です」
沙織は驚いた。
オルフェウスが話をする事になっていたようで、他のメンバーは口を開かない。
「魔矢が一番若いと思っていた」
「いえ、年齢ではなくて時代です。 魔矢はおよそ七百年前の聖闘士、私とジャガーが五百年前、クライストは四百年前で、ヤンがだいたい三百年前……」
童虎の目が見開く。
「では……、まさかあの時の楯座の聖闘士か……」
「童虎、知り合い?」
沙織は無邪気に尋ねる。ヤンはじっと童虎を見た。
「私がいた頃、天秤座の黄金聖闘士はまだ幼かった」
童虎は奇妙な偶然に呆然としている。他の黄金聖闘士たちは、想像できない思い出話の内容に呆然としている。
「私と彼が話したのは一度だけ」
「どんな話をしたの?」
答えたのは童虎本人だった。
「楯座の楯は、いくら最強と言われても聖闘士を守るしか出来ない。でも天秤座の楯は大勢の人を救う力を持つ。それは正義の心が集うからだと……」
「覚えていてくれて光栄だ。 それに話を聞いたらあの龍座の聖闘士は弟子だそうだな」
童虎は目を潤ませながら頷く。
「良い思い出が出来た」
彼は嬉しそうに笑った。
「ところでアテナ、聖域がアテナに沈黙していたことは、結構くだらない事ですよ」
オルフェウスの含み笑いに、沙織は不機嫌な顔をした。
「エリス。それは本当なの!」
沙織は思わず椅子から立ち上がった。
「当事者たちがそう言うのなら、本当だろう。 私は嘘は言っていない。
重要事項と思い込んだのはアテナの勝手だ」
確かに口車に乗らないほうが平和に暮らせると、童虎以外の黄金聖闘士たちは心の中で呟いた。