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サガとカノンの落ちた穴はとてつも広く深かった。階段の様な便利なものは当然ない。 「海の気配を感じます」 ソレントは穴を覗き込みながら、首を傾げた。 「では、ここにいる可能性があるな」 エリスはパンドラの方を向く。 「パンドラ、本当に付いて来るつもりか?」 何が起こるのか判らない世界が、足元に広がっているのである。 しかし、パンドラは首を縦に振る。 「私は全てを最後まで見届けたい」 彼女の言葉にエリスは眉を顰めた。 「実を言うと私は今が一番楽しいと思っているのだ。弟とある意味和解できたし、冥闘士たちを復活させるという私だけの目的もある。この二日間はあらゆることをしてみたい」 意外な言葉に沙織も驚く。 「……だが、確かにこれ以上私の我が侭で、三巨頭に怪我をさせては弟に申し訳が立たないな」 華奢なパンドラに言われては、三巨頭たちは立つ瀬がない。彼女は三巨頭の方を向くと、彼らにハインシュタイン城へ戻るよう命じる。 当然彼らは、その命令を頑として拒んだ。 「パンドラ様を置いて、我等が何処へ行きましょうか。我等は常に貴女様と共にいます」 三人は片膝をついて、パンドラに恭しく礼をする。 「……好きにしろ」 パンドラは再び彼らに背を向けて、穴を覗き込んだ。 「それでは降りましょう」 アイオロスは沙織を抱き上げる。 「ではパンドラ様、失礼いたします」 彼女は黒い短剣の入っているホルダーがラダマンティスに当たらないようにその位置をずらすと、彼の首に腕を回した。 ラダマンティスもまた、同じように抱き上げる。 「しかし、この穴の先に何があるのか分からない。行くのは闘士だけにした方がいいのでは?」 アルデバランの言い分は尤もである。 「私は絶対に降ります。彼らの無事を見届けるまで、聖域には帰りません。置いて行ったら、絶対に許しませんからね」 既に沙織の説得は不可能だった。 「私に気を遣う事はない。もし置いていくというのなら、一人で勝手に降りる」 (それは落ちるというのでは?) 全員、そう思っていても口には出さなかった。 「パンドラ様は我々が守る。黄金聖闘士に心配される謂われはない」 本当にやりかねない少女なので、ラダマンティスはその腕に力を込めた。 「心配などしておらん。足手まといなだけだ」 シャカの発言に、一瞬その場の空気が険悪になった。 「アルデバラン、シャカを頼む……」 アイオロスは苦渋に満ちた顔で言う。 エリスは関わっていられないとばかりに、さっさと穴に飛び込んだ。 「エリス!」 ソレントも追いかけるように飛び込む。 「お二方とも、危険が差し迫った時には、何と言われようとも避難させます。それだけは覚えていてください。 そして勝手な行動は絶対に許しません」 アイオロスの有無を言わせない注意に、沙織もパンドラも素直に頷いた。 そして沙織と黄金聖闘士たちが穴へ飛び込む。 「パンドラ様。何故あの男の言う事を聞くのですか!」 ラダマンティスは小声で話しかける。 「そう怒るな。あの注意は尤もな事だ。それより私を落としてくれるな」 「勿論です」 何かすっきりしないものを感じたが、彼はパンドラを抱いたまま穴に飛び込んだ。 「さて、この下は天国か地獄か」 「つまらない管理職をやっているより、ずっと楽しいな」 ミーノスとアイアコスは、楽しげに穴の中へ入っていった。 |
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