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探検 1

サガとカノンの落ちた穴はとてつも広く深かった。階段の様な便利なものは当然ない。
「海の気配を感じます」
ソレントは穴を覗き込みながら、首を傾げた。
「では、ここにいる可能性があるな」
エリスはパンドラの方を向く。
「パンドラ、本当に付いて来るつもりか?」
何が起こるのか判らない世界が、足元に広がっているのである。
しかし、パンドラは首を縦に振る。
「私は全てを最後まで見届けたい」
彼女の言葉にエリスは眉を顰めた。
「実を言うと私は今が一番楽しいと思っているのだ。弟とある意味和解できたし、冥闘士たちを復活させるという私だけの目的もある。この二日間はあらゆることをしてみたい」
意外な言葉に沙織も驚く。
「……だが、確かにこれ以上私の我が侭で、三巨頭に怪我をさせては弟に申し訳が立たないな」
華奢なパンドラに言われては、三巨頭たちは立つ瀬がない。彼女は三巨頭の方を向くと、彼らにハインシュタイン城へ戻るよう命じる。 当然彼らは、その命令を頑として拒んだ。
「パンドラ様を置いて、我等が何処へ行きましょうか。我等は常に貴女様と共にいます」
三人は片膝をついて、パンドラに恭しく礼をする。
「……好きにしろ」
パンドラは再び彼らに背を向けて、穴を覗き込んだ。
「それでは降りましょう」
アイオロスは沙織を抱き上げる。
「ではパンドラ様、失礼いたします」
彼女は黒い短剣の入っているホルダーがラダマンティスに当たらないようにその位置をずらすと、彼の首に腕を回した。 ラダマンティスもまた、同じように抱き上げる。
「しかし、この穴の先に何があるのか分からない。行くのは闘士だけにした方がいいのでは?」
アルデバランの言い分は尤もである。
「私は絶対に降ります。彼らの無事を見届けるまで、聖域には帰りません。置いて行ったら、絶対に許しませんからね」
既に沙織の説得は不可能だった。
「私に気を遣う事はない。もし置いていくというのなら、一人で勝手に降りる」
(それは落ちるというのでは?)
全員、そう思っていても口には出さなかった。
「パンドラ様は我々が守る。黄金聖闘士に心配される謂われはない」
本当にやりかねない少女なので、ラダマンティスはその腕に力を込めた。
「心配などしておらん。足手まといなだけだ」
シャカの発言に、一瞬その場の空気が険悪になった。
「アルデバラン、シャカを頼む……」
アイオロスは苦渋に満ちた顔で言う。
エリスは関わっていられないとばかりに、さっさと穴に飛び込んだ。
「エリス!」
ソレントも追いかけるように飛び込む。
「お二方とも、危険が差し迫った時には、何と言われようとも避難させます。それだけは覚えていてください。 そして勝手な行動は絶対に許しません」
アイオロスの有無を言わせない注意に、沙織もパンドラも素直に頷いた。
そして沙織と黄金聖闘士たちが穴へ飛び込む。
「パンドラ様。何故あの男の言う事を聞くのですか!」
ラダマンティスは小声で話しかける。
「そう怒るな。あの注意は尤もな事だ。それより私を落としてくれるな」
「勿論です」
何かすっきりしないものを感じたが、彼はパンドラを抱いたまま穴に飛び込んだ。
「さて、この下は天国か地獄か」
「つまらない管理職をやっているより、ずっと楽しいな」
ミーノスとアイアコスは、楽しげに穴の中へ入っていった。