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女王の島 3

ちょうどその頃、五老峰の大地もまた揺れた。 木々が騒めき。鳥たちが一斉に飛び立つ。
「地震だわ!」
畑の手入れをしていた春麗は、貴鬼が心配になって家に向かおうとしたが、揺れが酷くて動けない。
その時、大地に亀裂が入った。
「きゃぁぁぁ」
春麗が悲鳴を上げた途端、誰かが彼女の前に立った。
「静まりなさい!」
その女性の一喝に、大地の揺れが今度はピタリと止まる。
「エウリュディケーさん」
その姿に春麗はポロポロと涙を零す。
「春麗さん、大丈夫ですか?」
「エウリュ……」
次の言葉が出ない。春麗は彼女にしがみついた。
「昨夜は失礼致しました。黙って出ていったので、お詫びに花を置いていったのですが、気に入って戴けたでしょうか?」
春麗は返事のかわりに一生懸命頷いた。 そこへ貴鬼がテレポートを使って飛んできた。
「春麗!」
「貴鬼ちゃん、大丈夫だった」
しかし、貴鬼の方はメチャメチャになった畑を見て青ざめた。
(うわぁぁ、ムウ様と老師と紫龍に殺される!)
しばらく呆然とした後、貴鬼はユリティースの存在に気がついた。
「春麗、この人誰?」
誰と言われても春麗にもよく分からない。
「エウリュディケーと言います。 申し訳ありませんが、私の事は聖域には秘密にして頂けないでしょうか?
牡羊座の黄金聖闘士のお弟子さま」
春麗と貴鬼はエウリュディケーが持つ情報量の凄さに驚いた。
(敵じゃぁ無さそうだけど、ムウ様に知らせた方がいいかなぁ)
でも、不安でしょうがない筈の春麗が、彼女の前でほっとした顔を見せている。
騒ぎを大きくして、エウリュディケーがいなくなった方が問題のように思えた。
(でも、女神の試練が終わらないと、老師と紫龍はここには戻ってこれない)
老師の言い分も分かる気がするから、貴鬼はジレンマを感じていた。
「春麗さん、お弟子さま。私はもうそろそろ戻らねばなりません。 お二人が無事で良かった」
「エウリュディケーさん……。また来てくれますか?」
春麗は懇願するような眼差しで、エウリュディケーの顔を見る。
「喜んでお伺いさせて頂きます」
そして彼女は二人の前から、光と共に消えた。
(聖闘士って、誰かと一緒にいちゃいけないのかなぁ)
貴鬼は春麗の手を掴む。
彼女はびっくりしたが、直ぐに微笑んで貴鬼の手を握った。