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動きだした時間 1

ハーデスの野望は崩れさり、太陽が再び世界を照らす。
「帰ってくるんだよ。…きっと…。この光あふれる素晴らしい世界へ」
鷲座の魔鈴は祈るようにそう呟いた。自分の隣では、弟子の星矢の姉である星華が祈りを捧げている。
一つの戦いが終わりを告げ、聖域に新しい時代がやってきたというのに、その代償は大きかった。
十二人いた黄金聖闘士たちは一人残らずこの地から旅立った。彼らはアテナと共に冥界へ行ってしまったのだ。
先の聖戦では牡羊座のシオンと天秤座の童虎が生き残り、聖域を建て直した。
だが今回は残った白銀聖闘士たちと青銅聖闘士たちで建て直さなくてはならない。
(彼らが帰って来る場所を守らねば……)
魔鈴は拳を強く握った。
その時である。太陽の光が一段と強さを増した。
「敵襲か!」
その場にいた貴鬼が星華の手を引っ張る。
しかし、大地に降り立った光を見て、その場にいた全員が絶句した。
「ア……アテナ……」
アイオロスに抱き抱えられて、沙織がゆっくりと現れたのである。
そんな二人の背後で、十一人の黄金聖闘士たちは膝をついて荒い呼吸を繰り返していた。
「ムウ様!」
貴鬼は自分の師匠の姿を見つけると、素早く駆け寄って抱きついた。
「おかえりなさい。ムウ様」
「貴鬼、よく頑張りましたね」
そのまま貴鬼はムウにしがみついて泣きじゃくる。
そして、もう一つの再会はこちらほど優しくはなかった。
「情けないぞ!アイオリア」
兄の一喝に、獅子座のアイオリアは一瞬自分の目を疑う。
「に……兄さん」
同じように驚いたのが双子座のサガ。記憶をたぐるかのようにアイオロスの顔をじっと見た。
「全員、しっかりしなさい!」
男たちのぎくしゃくした再会を打破すべく、沙織は命令を下す。
「とにかく貴方たちには告げなくてはならない事があります。黄金聖闘士たちは私と一緒に神殿へ行く事。他の者はその間、聖域の警護です」
そして彼女はサガの前に立つ。
「サガ、ようやく貴方とゆっくり話が出来るようですね」
「アテナ……」
彼は沙織の顔をまともに見られない。
「私は……」
「貴方の命は私が預かります。絶対に逃げないで下さい」
サガの双眸から、熱い涙が零れた。
次に彼女は星華に近づいた。
「貴女が星矢のお姉さん……」
沙織は星華の手を取ると、自分の両手で包んだ。
「星矢は絶対に取り戻してみせます。だから今しばらく待ってください」
星華はその言葉に目を見開く。
「弟は……星矢は一体どうしたんですか!」
「……それを説明できれば良いのですが、彼は一緒にいた仲間と共に行方が判らないとしか言えないのです。でも、絶対にここへ連れてきますから、待っていてください」
それを聞いて、星華はポロポロと涙を零した。
「やはり私は弟と一緒にはいられないのですね」
「そんな事はありません」
沙織は星華の腕を掴む。
「絶対に諦めないでください。星矢は私が責任を持ってここへ連れてきます」
星華はじっと沙織の顔を見た後、小さく頷いた。