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海闘士側の話 4

「それにシードラゴンに謀られているという図式は、ポセイドン様のプライドから言っても絶対に認めないだろうし、こっちもあまりにも情けない話だからな」
バイアンは溜息をついた。
「でも何故私には教えてくれなかったのですか!」
衝撃の事実に怒りが沸騰したのは、ソレント。 これには全員苦笑している。
「教えようと思ったんだけど、セイレーンが怒りに任せてシードラゴンと仲違いすると、防御面に問題が発生しそうで出来なかった」
事実、先の戦いの時ソレントはカノンと見事に仲違いしている。
自分の性格が読まれていた事に、彼は少々恥ずかしさをおぼえた。
「セイレーンはポセイドン様の事になると冷静でなくなるからな」
アイザックが笑う。
『海妃アムピトリーテに聞かせたい話だな』
女性の声に海闘士たちは驚いてエウリュディケーの方を見たが、彼女はにこにこと笑っている。
「女神エリス、どちらにおいでですか?」
「ここだ」
争いの女神はエウリュディケーの斜め後ろに現れた。
「女神エリス!」
ソレントは思わず叫んだ。 カノンは初めて見るその女神に、嫌な印象を受ける。
(こいつが争いの女神……)
ソレントの印象では『訳の分からない女神』だが、自分の第一印象はあからさまに『近づくと危険』
「……セイレーンの鱗衣が修復されているな」
エリスはそう言いながらも、カノンの方を時々見ていた。
「はい。ヘカテ様がセイレーン様の演奏のお礼だと申しておりました」
「女神ヘカテから礼とは、永代の誉れだな。セイレーン」
「私も嬉しく思います」
何を考えているのか判らない女神の登場に、ソレントは緊張した。
他の海闘士もその経緯を聞いているので、何が起こるのかと警戒する。
「ところでシードラゴン。お前の力を借りるぞ」
エリスとカノンの視線があった時、エウリュディケー以外の全員が火花の音を聞いた。
「俺に何の用だ」
「まずは私とこれから聖域に行ってもらう。詳しい話はそれからだ。
あと二人くらい入り用だから人選はそっちに任せる」
「断るといったらどうする」
その場の空気が凍る。 さすがにエウリュディケーも不安げな顔になった。
「お前は断らない。危険な存在を野放しにする程、愚かではないからな」
勝負はあったと、全員が思った。カノンは周りを見回して、二人の人物に目を止める。
「えっ!」
「何で私が!」
掴まったのはアイザックとソレント。
「エウリュディケー、済まないが他の海闘士たちの事を頼む」
エリスに言われて彼女は優しく微笑んだ。
「それについてはヘカテ様からも言われておりますから、ご安心ください」
「では行くぞ」
そして『危険な女神』は三名の海闘士を連れて、その場から消えた。
「それでは皆さん、たいしたお持て成しも出来ませんが、宜しければ神殿でお待ちください」
エウリュディケーに案内されて四人は神殿へ向かう。
「あのメンバーで大丈夫かなぁ」
イオが隣にいたバイアンに尋ねた。
「それこそ試練だな」
海馬のバイアンはそう言って笑った。