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闇の中の光 4

闇が何かの傷を癒す様に、静寂の世界を包み守る。
春麗は女性の言葉に驚いた。
「私の事をですか?」
「申し遅れましたが、私の名はエウリュディケーと言います」
彼女は深々とお辞儀をした。春麗もつられてお辞儀をする。
「精霊たちが、泣いている貴女の姿を見て嘆き悲しんでいるので、失礼ながら遠目からでも一目と思い来ました」
春麗は首を傾げる。
「あの……エウリュディケーさんは精霊なのですか?」
仙女のように美しい女性なので、尋ねながらも春麗は妙に納得してしまった。
「少々違いますが、そのように受け取ってくださって構いません」
「あ、ありがとうござます。私は大丈夫です」
心配をかけてはいけないと思い、春麗は無理やり笑顔を作った。
「本当はこんな日が来るんじゃないかって、思っていたんです」
今まで誰にも言えなかった思いを口にして、春麗は涙を零した。
「私……何の力もないから、無事を祈る事以外、紫龍に何一つして上げられない。 むしろ行かないでって言って、いつも彼を困らせている。
どうして私はここに居るんだろう。どうして老師は私に出て行くよう言わないんだろう。ずっと考えていました」
涙こそ出てはいないが、彼女は泣き顔になった。
「私、最低ですよね。 老師は私を可愛がって下さったのに、私にはその優しさが辛くなっていったんです。 紫龍が好きだから一緒に居たかったけど、もう止めます。
老師や紫龍を憎むようにだけはなりたくないから……」
春麗は両手で顔を覆った。もう言葉は紡げない。
そんな春麗の事をエウリュディケーはそっと抱きしめた。
彼女は何事かと驚いたが、優しい香りと暖かなぬくもりが心地よい。
「春麗さん。今はゆっくりとお休みください。何も分かっていないうちに結論を出しては、きっと後悔しますよ」
限りなく優しい笑みを見て、春麗は押さえていたものが溢れそうになっていた。
「わ、私……」
「この地を離れるのも、愛しい人に別れを告げるのも、はっきりした事が分かってからでも遅くは無いと思います」
しかし、春麗はその事について一人っきりの時にたくさん考えていた。
そして出てくる答えはいつも同じだった。
(紫龍にとって、私はもう邪魔な存在にしかならない……)
『ここに帰ってくる』
(老師も紫龍もとうとう言ってくれなかった)
春麗は堰を切ったかの様に泣きだした。
彼らがその一言を言ってさえくれれば、彼女はこの五老峰で待てたのである。
でも、彼らは言わなかった。
その為に彼女は自分が捨てられたのだと思い、自分の心を自分で傷つけていたのである。

その夜、エウリュディケーは春麗が眠りにつくまで、傍で手を握っていた。
大滝の前で歌っていたのは外国の子守歌。彼女は春麗の為に、優しい声で歌った。
昨夜はほとんど一睡もしていなかった為に、春麗は直ぐに深い眠りに落ちる。
彼女は静かに部屋を出た。