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一方で光が舞い降りれば、一方では闇が辺りを包む。 太古よりの理は、どのような状態でも確実に発生する。 遥か遠くに離れた中国の五老峰。今、ここに闇が訪れようとしていた。 「……」 春麗は木々の騒めきを聞く。 しかし、彼女は紫龍の部屋でうずくまったまま動こうとしなかった。 (もう疲れちゃった……) 老師が去り、紫龍が去った後、彼女はずっと泣き続けていた。 (紫龍を止められなかった) 太陽は再び姿を現し、そして西の大地へ沈む。再び一人っきりで過ごす夜がやって来たのである。 もう、彼らは戻ってこないかもしれない。そう思って、彼女は再び涙を零す。 その時、何処からか歌声が聞こえてきた。 それが女性の声である事に春麗は驚く。 (こんな夜に誰かしら?) 怖いとは思わない。ただ、優しい歌声の正体を知りたいと思い、彼女は外へ出た。 (滝の音が聞こえない) 自然の音が無くなり、歌声だけが聞こえてくる。それは春麗にとって、見慣れていながら知らない外の風景だった。 もしかすると仙女が来ているのかと、彼女は思った。 いつも老師が大滝の前で座していた場所の傍で、一人の女性が立っている。 大滝は月夜ではないのに淡く光っていた。 女性は春麗の方を向いた。 「失礼致しました」 女性は春麗に一礼をすると、そのまま立ち去ろうとする。 「待って!」 彼女は慌てて謎の女性のもとへ駆け寄った。 女性は春麗の顔をじっと見つめる。春麗も、呼び止めたのはいいが、どうしたらいいのか分からない。 「あ、貴女は誰?どうして大滝の前にいたの?」 春麗はとにかく話しかけてみることにした。見知らぬとはいえ、女性と話をするのは久しぶりだったし、それ以上に彼女は誰かと話をしたかった。 「その……老師に何か用があったのですか?」 普通に尋ねた筈だが、春麗は涙が出そうになった。 しかし、女性は嫌な顔一つせずに春麗の事を見ている。 「用があったのは聖闘士の方ではありません」 聖闘士という言葉に、春麗は驚いた。老師は仙人のようだと、近くの村の住民から言われることはあるが、聖闘士であることは知られていない。 説明すべき事でも無いので、老師を聖闘士というのは聖域の人間と言うことになる。 「貴女は聖域の人?」 とは言え、春麗も聖域の事はあまり詳しくは知らない。 「……。ここへは貴女の様子を見にきました」 女性は優しい笑みを浮かべた。 |
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