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「その他とはどうしたんだ?」 「ここだけの話にしておいて欲しいのだけど、聖域には私の理解を超えている不文律があるみたいなの。何もそこまで厳しくしなくてもと、いつも思っているんだけどね」 「規律の厳しくない組織はすぐに瓦解する。仕方あるまい」 何故かパンドラが聖域のシステムに理解を示している。 エリスは奇妙な会話を聞かされて、自分の耳を疑いたくなった。 「私のところは厳しくしないと直ぐに規律が崩れる。やはり冥衣が選んだ人間は冥闘士の資格を持っていてもそれだけの話だ。適正が無い者を冥衣が選ぶ事がある」 「……それは大変ね」 この会話を捕捉したのはエリスだった。 「神代の時から、冥王も海皇もアテナに負けては基盤を失っているのだから仕方あるまい」 綿々と受け継がれ、基盤の確かな聖域が育てた闘士と、蘇った神々が呼んだ闘士とでは その根底が随分違うのは当然の話。 「勝てるわけがなかったのだな」 パンドラはようやく納得が出来た気がした。 これではどう足掻いても、アテナの聖闘士に勝てる訳が無いのである。それこそ奇跡でも起こさない限りは……。 (もう、恨むまい。そんな簡単な事が判らなかった私に責任があるのだ……) パンドラは今度弟に逢えたら、闘士をちゃんと育てることを教えたいと思った。 牡羊座・牡牛座・乙女座。蠍座・魚座・山羊座。 見つけていくうちに、どういう訳か沙織の表情が厳しくなった。 「どうしたのだ?」 パンドラは彼女が疲れたのかと思った。だが、彼女の返事は予想外のものだった。 「……ごめんなさい。今、凄く緊張しているの」 沙織の頭上で光がふよふよと漂う。 「緊張?」 シードラゴンを探しに行けないエリスは、やや目がつり上がっていた。 「残りがデスマスクとサガとカノンと……アイオロスなのね」 「それがどうかしたのか?」 パンドラは首を傾げた。 「……実は昔、聖域が荒れていた時期があって、当時赤ちゃんだった私を命懸けで聖域から脱出させてくれたのがアイオロスなの」 さすがに荒れた原因がサガにあるとは言いにくいので、沙織は言葉を選んで話すことにした。 「だから……、アイオロスに会えるのかと思ったら凄く緊張しちゃって……。 ずっとずっと会いたかったけど、もういない人だったから絶対に会えないと思っていたし……」 沙織の目から涙が零れる。 「会えたら、ごめんなさいって言おうと思って……」 涙声がとうとう嗚咽の声に変わる。 そこにいたのは女神ではなく一人の少女。エリスはお手上げといった仕種をした。 「私は苦手だ。パンドラ、頼む」 言われたほうも『得意分野ではない』と言いたかったが、姉モードのスイッチが入ったらしく沙織の事を抱き寄せた。 「アテナ、そういう時はごめんなさいではなくて、まずはありがとうだろ」 「えっ……」 「助けてくれてありがとう。 アイオロスとやらも、謝られるよりそっちの言葉を聞きたいと思っているはずだ」 パンドラの胸の中で沙織は頷くと、しばらくの間泣き続けていた。 |
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