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荒野を行く 1

怒濤のごとき展開だった為、まずはパンドラに試練の詳しい事を知らせる事が優先された。
試練は二つある事。そして決定権は女神ヘカテにある事。
「邪魔が入る事は、覚悟した方が良いかもな」
彼女はそう呟いて自嘲した。エリスは、沙織の方を向く。
「アテナ、あの鎧については冥王が手を貸してくれた」
「なんで!」
「冥王が諫めたから、鎧がその判断基準を緩めたのだ」
エリスの言葉に彼女は驚いてパンドラの事を見た。 パンドラは真剣な表情で頷く。
「ハーデスがそんなことを……」
「どうやら私たちが思っているような、冷酷な神ではないみたいだな」
しかし、沙織は信じられなかった。

そして到着したオラクル内部では、オルフェウスが嬉しそうに竪琴を奏でている。
エウリュディケーは優しい微笑みを浮かべると、三人の元に近づいた。
「何でオルフェウス以外の者たちは、疲れた表情をしているのだ?」
エリスの問いに彼女は困ったような顔をした。
「私にも判りません。こちらに戻ってきた時から皆さんお疲れのようでしたから」
その会話が耳に届いたソレントは、心の中で思いっきりツッコミを入れていた。
(貴女を心配するあまり外に出ようとした彼を、全員で止めたからです……)
げに恐ろしきは恋の力である。
「女神アテナ、お疲れになられましたか?」
エウリュディケーの心配そうな表情に沙織は慌てて作り笑いをする。
エリスは床に冥衣を置くとソレントの元へ行き、彼に耳打ちをした。
彼は驚いたが、何やら強引に説得されていた。
「アテナ、パンドラ。行くぞ」
エリスは引きずるように二人の腕を引っ張って行った。
それを見送った後、ソレントはオルフェウスの所へ行った。
「エリスからの依頼で、しばらく私が曲を演奏する」
「何故だ?」
「まあ色々と……」
そう言ってソレントはポセイドンの元にいたときに、奏でていた曲を吹き始めた。

「これはフルートの音か?」
オラクルを出ると、優しいメロディが辺りに響きわたっている。パンドラは耳を澄ませて聞きいっている。
「セイレーンが仲間に聞かせる為に、奏でている」
しばらくするとオラクルの周りに、あるべきのない水たまりがポツポツと現れはじめた。
「海闘士たちが来てくれたようだ」
エリスは鍵を持ったまま水たまりに手を入れる。
すると水たまりから鱗衣が出てきた。沙織とパンドラは出てきた鱗衣を次々と拾う。
やはりそれらは冥衣と同じように大きさはあったが、重さは感じられなかった。
「あと一つだが……」
エリスは周囲を見回したが、水たまりは見えない。
「何が足りないの?」
沙織は嫌な予感がした。
「シードラゴンだ」
争いの女神は大地に置かれた鱗衣を持ち上げる。
「セイレーンとは仲が悪いみたいだな」
しかし、一度に五体の鱗衣が見つかったので、エリスは機嫌が良かった。
「パンドラの叫び声に三巨頭が反応したから、もしやとはとは思った」
「そうなの?」
パンドラはその時の事を思い出す。
(よりによって居ない男の姿を探していたとは……)
「残りはあと13人か」

黄金聖闘士たちは一人も見つかっていない。