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思慕 6

パンドラにとっては涙が出るほど愛しい弟の声が、辺りに響いた。
「ハーデス!何処にいるの」
『自らの存在を否定せぬよう。審判の鎧よ』
声が消えた後、杖はその動きを止めて大地に横たわった。その声が終わるや否や、懲罰の鎧はその赤さが抜けて行った。 代わりにエウリュディケーの頬に赤みが戻る。
「いったい何が……」
エウリュディケーはゆっくりと起き上がる。身体に力が入る。
「大丈夫か」
エリスが彼女を支えるように、一緒に立ち上がった。
「大丈夫です。嘘みたいに身体が軽くなりました」
鎧はやや赤みがあるというレベルで、先程の鮮やかさに比べたら『随分色が抜けている』と言っても差し支えなかった。
パンドラは俯いたまま、二人に杖を渡した。
「パンドラ様、ありがとうございます」
エウリュディケーがその手に触れて杖を受け取った時、パンドラはその手を握った。
「逢わせる…」
「どうかなさったのですか?何処か痛むのですか?」
「ユリティース、絶対にお前をオルフェに逢わせる」
エウリュディケーはびっくりした表情でパンドラを見た。
「エリス、私もその試練に参加するぞ」
彼女の激しい感情を秘めたその眼差しに、エリスは楽しそうに頷いた。
「ところでパンドラ様、その短剣は宜しければ預かりますが……」
「大丈夫だ」
パンドラは自分のドレスの裾を破くと、紐を作って短剣を腰に括り付けた。 その時、背後から人の声。
「三人で何やっているの?エウリュディケー、その鎧の色はどうしたの!」
沙織が息を切らせながらやってきたのだった。
「アテナ、ちょうど良いところに来た。その質問にはちゃんと答えるから、代わりにこれを持て」
沙織はエリスから小さくなったガルーダの冥衣を渡された。
「エウリュディケー、アテナにはこっちで説明するから先に戻っていてくれ」
「判りました」
試練の審判は三人に挨拶をすると、黒い杖を振ってその場から姿を消したのだった。
「さて……」
エリスはそう呟いてグリフォンの冥衣を持つ。パンドラはワイバーンを手にした。
何の力が働いているのか判らないが、冥衣は大きさはあったが重さはほとんど感じなかった。
「何から説明するべきか」
エリスは面倒くさそうな顔をした。