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パンドラにとっては涙が出るほど愛しい弟の声が、辺りに響いた。 「ハーデス!何処にいるの」 『自らの存在を否定せぬよう。審判の鎧よ』 声が消えた後、杖はその動きを止めて大地に横たわった。その声が終わるや否や、懲罰の鎧はその赤さが抜けて行った。 代わりにエウリュディケーの頬に赤みが戻る。 「いったい何が……」 エウリュディケーはゆっくりと起き上がる。身体に力が入る。 「大丈夫か」 エリスが彼女を支えるように、一緒に立ち上がった。 「大丈夫です。嘘みたいに身体が軽くなりました」 鎧はやや赤みがあるというレベルで、先程の鮮やかさに比べたら『随分色が抜けている』と言っても差し支えなかった。 パンドラは俯いたまま、二人に杖を渡した。 「パンドラ様、ありがとうございます」 エウリュディケーがその手に触れて杖を受け取った時、パンドラはその手を握った。 「逢わせる…」 「どうかなさったのですか?何処か痛むのですか?」 「ユリティース、絶対にお前をオルフェに逢わせる」 エウリュディケーはびっくりした表情でパンドラを見た。 「エリス、私もその試練に参加するぞ」 彼女の激しい感情を秘めたその眼差しに、エリスは楽しそうに頷いた。 「ところでパンドラ様、その短剣は宜しければ預かりますが……」 「大丈夫だ」 パンドラは自分のドレスの裾を破くと、紐を作って短剣を腰に括り付けた。 その時、背後から人の声。 「三人で何やっているの?エウリュディケー、その鎧の色はどうしたの!」 沙織が息を切らせながらやってきたのだった。 「アテナ、ちょうど良いところに来た。その質問にはちゃんと答えるから、代わりにこれを持て」 沙織はエリスから小さくなったガルーダの冥衣を渡された。 「エウリュディケー、アテナにはこっちで説明するから先に戻っていてくれ」 「判りました」 試練の審判は三人に挨拶をすると、黒い杖を振ってその場から姿を消したのだった。 「さて……」 エリスはそう呟いてグリフォンの冥衣を持つ。パンドラはワイバーンを手にした。 何の力が働いているのか判らないが、冥衣は大きさはあったが重さはほとんど感じなかった。 「何から説明するべきか」 エリスは面倒くさそうな顔をした。 |
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