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思慕 5

「パンドラ…様…。ご心配を……」
「もういい。喋るな!」
その時二人のいる場所の大地が揺れた。
「パンドラ様……、逃げて……」
「断る!其方を置いて立ち去るなど、たとえ神の言葉でも聞かぬ」
大地はますます激しく揺れ、彼女らを取り囲むように三つの大岩がそそり立った。
「……これは……」
パンドラは岩を見て、目を見開いた。冥衣が半分埋められていたからである。
「まさか……」
どの冥衣も見覚えがあった。
「何故、三巨頭の冥衣が……」
「お前が呼んだからだ」
第三者の声にパンドラはぎょっとした。 岩の影から現れたのは、『死』と『眠り』の妹神エリス。
「私が呼んだだと……」
「そうでなければ、三巨頭はお前を見つけられない」
エリスは二人に近づくと、パンドラの目の前に黒い鍵を出した。
「まずはこの鍵でこの者たちを解放しろ」
彼女は鍵を受け取る。
「女神エリス……」
「冥王を呼んだのは、エウリュディケーか?」
その問いに儚げな審判役は弱々しく微笑んだ。
「冥王に…頼まれた…のでは…ありません。自分で……」
「情に流され過ぎだ。冥王は恩に着るような男ではないぞ」
「構いません……。私はやりたいと…思った事を……したまでです」
彼女のその言葉に、エリスは満足そうにな笑みを浮かべた。
パンドラの方では岩にある鍵穴に鍵を差し込んで、次々と冥衣を取り出している。
冥衣は取り出された後、三分の一程の大きさになり、岩は粉々に砕け散った。
「全部、出したぞ。これからどうするのだ」
「とにかく、私はエウリュディケーを背負う。パンドラは済まないが、杖を持ってくれ」
エリスは無理やりパンドラに白い杖を渡した。
彼女はそれを受け取ると、もう一つの黒い杖も拾い上げた。 その時、二つの杖が震えた。
「これは!」
杖はいきなりパンドラの手を離れると、歩くのも困難な大地の上でお互いがパートナーのように回りはじめた。
『懲罰の鎧よ。其方の正義に情は在りしか?』