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冥界の荒れた大地をパンドラはあてもなく彷徨っていた。 岩の尖った部分が彼女の柔らかい肌を傷けたのか、その両足は傷だらけであった。 (私はこんなにも弱かったのだな) 当たり前の事実に、より一層の苛立ちと絶望が心に忍び寄る。 (この私に三巨頭を復活を依頼するだと。そのような事、女神どもで勝手にやれ) そう心の中で呟いた時、パンドラの脳裏に男の姿が思い出された。 (だがあれらを復活させたところで、きっとあの男には手こずるだろう) パンドラの口元から笑みが零れる。 ワイバーン(天猛星)のラダマンティス。勝手な事ばかりやる男だった。 (あれは制御できぬ炎のようなものだ。気を抜けばこっちが呑み込まれる) もうこの世界の何処にもいない男が、何故こんなにも鮮やかに思い出されるか。 (あの男にだけはこのような無様な姿を見せずに済んだのは、ある意味幸運だった) パンドラは大きな岩の横まで歩くと、その岩に寄り掛かった。 どれくらい歩いたのか判らないが、女神たちに見つからないくらい離れなくてはと考え、再び歩きはじめた時、目の前に赤い光が降り始めた。 (何だ?) そして光は女性の姿になり、パンドラの前に現れた。 驚きと体力の限界で、彼女はその場に膝をついた。 「パンドラ様……」 現れたエウリュディケーは手を差し伸べたが、パンドラはその手をはねつけると自分一人の力で立ち上がった。 「私はお前の顔を覚えているぞ。オルフェの恋人だった女だな」 パンドラは赤い鎧の女の事を睨み付けた。 「覚えていて下さって、光栄です」 青白い顔だちをしているとはいえ、エウリュディケーの神々しくも力ある姿を見たパンドラは可笑しそうに笑った。 「どうやら立場が逆転したということらしいな」 その言葉にエウリュディケーは悲しそうな表情をする。 忌ま忌ましげに黒の女王は叫んだ。 「この私を笑いに来たのか!それとも私が無様に野垂れ死ぬところを見に来たのか」 溢れてくる涙が頬をつたう。 「さあ、ユリティース。お前を苦しめた者が今こうして無力な存在になっている。 どのような武器でも出して、私を……」 振り絞るように出された言葉であった。 「……あなたに会わせたい方がいます。会って頂けますか?」 意外な言葉にパンドラはしばらく返事が出来なかった。この異常な状態の時に、目の前の女は何をしようと言うのか。 「誰に会えと言うのだ。敵か?死神か?」 エウリュディケーは黒い杖を動かすと、意外な言葉を口にした。 鎧の色がほんの少し赤味を増す。 「あなたの弟です」 |
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