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思慕 1

オルクスの外は今や、鏡のような大地から道どころか歩くのも困難な世界に変貌していた。
「確かにここを歩いて各世界の闘士を探すのは重労働だわ」
沙織が外の世界を見た瞬間、そうつぶやいたのは無理もなかった。
尖った形の岩で敷きつめられた大地は、一目見ただけでこの試練が半端な覚悟では達成できない事を物語っていたからである。 彼女はこれから相棒になるであろう女神の方を向く。
「エリス、あのパンドラって女性は何者なの?」
しかし、この相棒は面倒だと言わんばかりの返事だった。
「冥王を大切に守っていた者だ。
アテナが人間の世界で育てられていたように、冥王も人間と共に暮らしていたということだ」
「でも、ハーデスは魂だけの存在だっだのよ」
「羨ましいのか?」
意外な言葉に沙織は返事のしようがない。
「何でそう思うのよ」
エリスは少しの間沙織の事を見ると、直ぐにこの会話を打ち切った。
彼女もまたしつこくは聞けなかった。
「これから私は海闘士を探す。アテナは黄金聖闘士を探せ。
一緒に行動しては手間ばかりかかるからな」
沙織は頷いたが、自分の中で渦巻いている不安を口にした。
「ところで……彼女はどうするの?」
しかし、エリスは呑気に周囲を見回している。
「放っておけ」
「それじゃぁ、試練はどうなるの!!」
「試練は通過点だ。最終目的ではない」
「……」
「それより私たちが気にしなくてはいけないのは、お互いに無理をしてエウリュディケーに負担をかけるような真似だ」
そう言ってエリスは沙織の前から離れて行った。
「エリス……、貴女はいったい何をやろうとしているの?」
沙織は呆然とした面持ちで、持っていた金の鍵を見つめた。

彼女は杖を手に静かに立っていた。重々しい空気がその場を支配している。
オルフェウスが竪琴を奏ではじめた。美しい調べがその場に流れる。
「……」
エウリュディケーは少し驚いたような表情をしたが、そのあと優しく微笑んだ。
全員、耳をすませて聞き入っていたが、しばらくして異変は起こった。
彼女の体に光りが集まりだしたのである。
「皆さんはここにいて下さい。大丈夫ですから……、心配しないでください」
エウリュディケーは優しく微笑む。鎧がほんの少し赤みを増す。
しかし彼女は止める者たちの手をすり抜けるように、光と共に姿を消した。
「エウリュディケー!」
オルフェウスが絶叫した。