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思惑 3

「パンドラ、初めてお目にかかるが我が名はエリス。争いの女神だ。
我が兄タナトスとヒュプノスが世話になったな」
エリスの挨拶に彼女は目を見開いた。
「冥王は女神アテナに破れた。当然、私の二人の兄も今は眠りについている。
別にお前に恨み言を言いに来たわけではない。私はお前が冥王を裏切ってまで助けた地上の面倒な問題を解決する為にやってきたからだ」
そう言ってエリスはパンドラの腕を引っ張る。彼女はふらつきながらも立ち上がった。
「私の言っていることが判るな」
しかし、パンドラは返事をしない。悔しそうに俯いている。
そしてようやく一言呟いた。
「……ハーデス様は女神アテナに倒されたのか……」
それは消え入りそうな涙声だった。
「そうだ。だがお前には泣いている暇はない。 今や冥王の大切な冥闘士たちが復活出来るかどうかの瀬戸際だ。是非お前に協力してもらうぞ」
『冥闘士たち』という言葉にパンドラが反応した。
「どういうことだ」
パンドラはエリスを疑わしそうな眼差しで睨み付けた。
しかし、争いの女神は冷やかに笑う。
「既にアテナの黄金聖闘士、海皇の七将軍、冥王の三巨頭が全滅している」
そう仕向けたのは貴女です、とソレントは心の中でツッコミを入れた。
エリスの説明は続く。
「神々は彼ら主要の闘士の復活は認めるが、その他の闘士は認めない。 しかしそれではこれから戦いが起こった時、彼らはきっと生き残れない。どうしても聖闘士・海闘士・冥闘士には全員復活してもらわなくてはいけないのだ。
全員復活の権利を持つ古の女神は、私達が試練を乗り越えればその願いを叶えてくれると言っている。 お前にはこれから私やアテナと共に試練に参加して貰うぞ」
エリスの言葉にパンドラは再び俯くと震える声で反論した。
「私が冥闘士たちを動かせたのは、お前の兄たちが私にその力を与えていたからだ。 もう只の人間になった私に、争いの女神が何の用だ。
生憎だが私は冥闘士たちを裏切って、フェニックスをエリュシオンに送り込んでいる。 ハーデス様の行動を止める為だ。そんな人間を冥闘士たちが許す訳がないだろ!」
その怒りに燃える瞳から、はらはらと涙が零れる。
「私に構うな。女神なら駒は他にあるだろう」
パンドラはエリスの手を振りほどくと、周囲を見回す。
彼女はエウリュディケーを見た時、一瞬顔色を変えた。 だが一カ所通路らしきものを見つけるとそこへ向かって歩きだした。
「パンドラ!」
沙織が追いかけようとした時、エリスが叫んだ。
「誰も追うな!」
全員エリスの方を向く。