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思惑 2

「許可致します」
「では、呼ぶことにしよう。白の杖と黒の杖があれば簡単に出来る」
エリスは自分の持っている杖をエウリュディケーのほうへ向けた。エウリュディケーもまた黒い杖をエリスの方へ向ける。
「他の者は離れろ。力の反動があるかもしれない」
ソレントはとっさに沙織の肩を掴むとその場から引き離した。亡霊聖闘士たちも不安げな表情をしたが、言われた通り二人から離れる。
エリスとエウリュディケーは呪文を唱えはじめる。それは美しい歌声。
そして二つの杖が触れた時、閃光が辺りを照らし、強い風が吹き荒れる。
ソレントはその光と風から沙織を庇うように、彼女に覆い被さった。

光と風の嵐が終わった後、そこにいた者たちを動かしたのはエリスの叫び声だった。
「エウリュディケー!」
恐る恐る目を開けた彼らが見たのは、赤い鎧をまとって倒れているエウリュディケーと、彼女を抱き起こして頬を叩いているエリス。 そしてその傍で倒れている長い黒髪の女性だった。
沙織は駆け寄ると、初めて見る女性とエウリュディケーの顔を覗き込んだ。
ヘカテの側近の顔色は、血の気を失って白くなっている。 エリスはこのとき初めて悔しそうな顔をした。
「女神ヘカテはエウリュディケーに懲罰用の鎧を与えていた……」
その時、エウリュディケーがうっすらと目を開けた。
「……女神エリス……ご無事でしたか……」
横を向くと黒髪の女性パンドラは、ジャガーが抱き起こしていた。 しかし、目を覚ます気配はない。
「エウリュディケー、何故自分に罰則用の鎧が付けられていると言わなかった」
沙織は自分が鎧に感じた嫌な印象の正体を知った。
この鎧はエウリュディケーが自分たちに便宜を図ると、彼女の血を吸って赤くなるのである。
エリュシオンに伝わる聖なる大甕と同じ機能なら、鎧はその色が血の色と同じになった時、エウリュディケーの命を奪う。
女神たちにとってこの試練は、厳しいまでに自分の力を抑えないと、心優しい審判を死に追いやりかねないものだった。
「これは私が審判役である為の鎧。これくらいは覚悟の上です。女神エリスや女神アテナがお気になさる事ではありません」
古の女神の美しい側近は、何とか立ち上がると黒髪の女性に近づいた。
「パンドラ様……」
エウリュディケーは悲しそうな瞳でパンドラに声を掛ける。
すると長い黒髪の少女はぱちりと瞼を開けた。
「私に話をさせろ」
エリスはパンドラの腕を掴む。
その行為にパンドラは何が起こったのかさっぱり判らず、呆然とした面持ちでエリスの事を見た。