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赤い光が舞い降り、ヘカテの側近は白い鎧をまとって姿を現した。そして手には絡まる3匹の蛇の形をした杖。 先程話に出ていたヘカテの黒い杖が握られている。 一瞬、沙織は白い鎧に嫌な印象を受けた。 「女神ヘカテ様より、許可が降りました。これより『全てか無か』の試練を行います」 エウリュディケーが杖を高く上げると大地はいきなり胎動し、彼女らのいる場所を中心に大きな円を書くように壁を作りはじめた。 壁は次々と厚く高くなり、そしてコロッセオのような形になった。 「今回、試練は2つありますが、闘士の方々は参加出来ません。この空間でお待ちください。この試練は女性の方のみ参加資格を持ちます」 これにはその場にいた者たちは異議を唱えたが、エリスと沙織は頷いた。 「主導権はヘカテ様にあるのだから、異議は唱えない」 むしろエリスはその条件を喜んでいる。 「それから女神エリス。ヘカテ様からの伝言ですが、『最初から最期まで二人か?』との事です」 エウリュディケーの言葉にエリスは驚きもせずに答えた。 「助っ人を一人申請したいが、許可が下りなければ呼ばないつもりだ」 沙織の方が話の展開に驚いていた。 「……その件に関しては、試練の審判であり見届け役である私に一任されています。宜しければその方の名前をお教え下さい」 「冥王ハーデスの姉であったパンドラだ。 私の二人の兄が愚かにも彼女を死なせてしまった為に、この試練に元々参加させる予定が狂ってしまった」 エリスは何かに挑戦するかのような眼差しでエウリュディケーを見ている。 そしてエウリュディケーは目を伏せて唇を噛んだ。 その緊張を知らずか、沙織は手を叩く。 「そうだった!タナトスとヒュプノスはエリスの兄だったわね」 「まったく余計な事をしてくれた。どうも兄たちは自分の力を軽んじる」 争いの女神は、やれやれといった表情で溜息をついた。 「あの……エリス……」 その言葉にエリスは彼女の顔をじっと見た。 「言っておくが、ペガサスたちに対してどうこうする気はない。相手の力量を見誤った兄たちが愚かだっただけだ」 「そういうものなの?」 「そういうものだ」 沙織はしばらく考え込む。 しばしの沈黙の後、再び沙織がエリスの方を向いた。 「エリス!ハーデスの姉のパンドラって誰なの?私はそんな女性に会っていないわ!」 「ああもう煩い。後で詳しく教える!」 「絶対よ!」 威厳のかけらもない会話である。 既にソレントの中で今の沙織は、気高い戦の女神ではなくごく普通の女性になっていた。 「エウリュディケー、どうした?」 争いの女神は冷やかな笑みを浮かべている。 傍目からこの会話を見ているソレントは、争いの女神の行動に違和感を覚えた。 (力関係が逆転している……) エウリュディケーは伏せていた目を開ける。 その眼差しには力強い光が宿っていた。 |
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