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闘士側の話

「何だか凄い展開になってきた…」
魔矢のつぶやきに、ジャガーは笑った。
「あの方にはいつも驚かせられる。退屈はしないな」
「まったくだ」
クライストもまた楽しそうである。 ソレントは彼らの会話に首を傾げた。
ソレントは自分を強引にここへ連れてきた彼らをエリスに協力しているアテナの聖闘士だと思っていたからである。 しかし、その割には発言が女神エリス寄り。
「あなた方は聖闘士ではないのか?」
彼は自分の近くに居たヤンに話しかけてみる。
「我々五人は生きていた時分は聖闘士だったが、今はエリス様に仮初めの命と聖衣を戴いた亡霊聖闘士だ」
「では……」
「ひらたく言えば、聖域の裏切り者だな」
しかし、その表情はのびのびしている。
「アテナはそれをご存じで?」
「知っている。しかもこっちは一度アテナを捕らえて殺そうとした」
ヤンの言葉にジャガーが続いた。
「あの時は青銅聖闘士の五人に邪魔されて、成功しなかった。 まぁ、ある意味成功……」
そう言い掛けてジャガーの口はクライストの手で塞がれた。
「ジャガー。つまらない事はそれこそ墓場まで持っていこうぜ」
そしてその話はそれっきりになった。
今度はソレントが、手に持っているフルートの説明をさせられる事になったからである。

そして亡霊聖闘士たちのある意味口説き落としで、ソレントとオルフェウスは一曲づつ演奏をすることになった。黒光りするまっ平らな大地と星のない空の間で行われた演奏会はとても素晴らしく、一曲終わる毎に沙織もエリスも拍手をした。
「素晴らしいわ!」
沙織は素直に喜んでいる。
「海闘士にこれほどの男がいるとはな」
エリスも感心していた。
「オルフェウスとセイレーンは一緒に演奏出来ないか?」
魔矢のリクエストに二人は顔を見合わせた。
「セイレーンは今の時代の人間だ。私の居た時代の音楽は知らないだろう」
「先程の曲を演奏してくだされば、私のほうで音を合わせます」
ソレントの申し出にオルフェウスは驚いた。
「よかろう。頼むぞ」
オルフェウスはそう言って演奏を始めた。 竪琴とフルートの音色は冥界に響き渡る。
すると演奏会の場所にのみ柔らかな光が降り始めた。
「ヘカテ様も聴いていらっしゃるのかしら?」
沙織は嬉しそうにエリスに話しかけた。
「そうだといいな」
沙織はじっと光が降る空を見上げた。 それは奇妙な感覚。
冥王ハーデスと激しい戦いをして、今まさに自分の大切な聖闘士たちを生き返らせる為に試練に立ち向かうという緊張と重責を、以前敵だった二人の闘士が癒し、気持ちを軽くしてくれている。
「みんなにもこの音色を聞かせてあげたいわ」
沙織は手を合わせ祈りを捧げる。
そして演奏が終わり、空から降る光がなくなった時、エウリュディケーが戻ってきた。