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「女神エリス、随分強引な手段に出ましたね。ヘカテ様も驚かれていましたよ」 たった今、琴座の(元)聖闘士に一目惚れされたという事に気付かないエウリュディケーは、凛々しい表情で女神と会話をしていた。 その神々しさはアテナやエリスと一緒にいても、何の遜色もない。 「せっかくヘカテ様と勝負が出来るのだから、このチャンスは逃したくない」 「勝負ですか?特に勝負することはない筈です」 エウリュディケーは首を傾げた。 「古の約束により、ニュクス様の持つ『白の杖』とヘカテ様の持つ『黒の杖』の前で黄金聖闘士を十二人・海闘士を七人・冥闘士を三人蘇生させるだけですが……」 エリスは腕を組んで楽しそうに笑った。 「冗談を言うな。合計二十二人プラスαで何が出来る。 彼らが守護地に戻ればヘカテ様はお役御免ということで、再び眠り続ける生活に戻ってしまうというのに」 「それが約束ですから……」 エウリュディケーは困惑している。沙織は疑問に思っていた事を口にした。 「蘇生はその二十二人だけなの?」 エウリュディケーは頷く。 「残念ながらその他の闘士の方々は、このまま消滅となります。つまり蘇生される方々は多くの闘士たちの思いを代償に復活されるのです」 それを聞いて沙織は俯いてしまった。 だが、エリスは特に動揺したりしなかった。 「エウリュディケー。私はあの試練をやることを希望する」 「……」 「私は『全てか無か』をやりたい」 エリスの申し出にエウリュディケーは驚きの表情をした。 「女神エリス! 何故それを……」 「私の母は女神ニュクス。母から無理やり聞き出して来た。 だからこそ今ここにいるのは妹のネメシスではなくて私なのだ」 エリスは不敵な笑みを浮かべた。 沙織とソレントは首を傾げる。 「エリス、それは何なの?」 すると説明をしたのはエウリュディケーだった。 「全てを手に入れるか、全てを失うか。他の闘士たちも蘇生させる為には、全てを失う危険の高い条件をなし遂げて、その力量を他の神々に示す試練の事です。ヘカテ様が出した条件なら他の神々は文句を言いません。しかし、それが何であるかは試練が始まってから提示されます。 ただし途中で試練を放棄した時は、闘士を全員を消滅させます」 「全員で仲良く元に戻るか、それとも全員で心中するか。実際、あの人数だけで世界を守りきれるわけがない。エウリュディケー、ヘカテ様に女神エリスと女神アテナが試練を行いたいと言っていたと伝えて欲しい」 エリスの言葉にエウリュディケーがしばらく考え込んでいると、沙織が彼女の前に立った。 「お願い。試練をやらせて」 エウリュディケーは不安げにソレントの方を見た。 「海闘士の方は?」 ソレントは、深い溜息をついている。 「私も賛成です。海闘士の七将軍だけでは、広い海をまとめきれません。 ただ、ちょっと問題が残りますが……」 「カノンの事ですか?」 沙織に言われて、ソレントは頷いた。 「あの男を私は許した訳ではありません」 女神ヘカテの機嫌を損ねない程度の騒ぎで済んで欲しい話である。 だが、エウリュディケーは何かを決意したらしく、厳しい眼差しでエリスの事を見た。 「女神エリス、覚悟はありますか?」 するとエリスは満足げに笑ったのである。 「覚悟がなければここにいる者たち巻き込んで、こんな話をしない。それに私は争いの女神、恨みも怒りも悲しみも常に覚悟している。心配することは無い」 「……判りました。今からヘカテ様にお伺いをたててきます。お待ちください」 そう言ってエウリュディケーは赤い光に包まれると、その場から消えた。 |
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