「今、何て言ったの?」 「二度は言わない。早く戻れ」 「聖闘士たちが帰ってくるって言ったわ!」 「聞いていたのなら、聞き返すな!」 沙織はエリスの両腕を掴んだ。 「教えて頂戴。貴女はいったい何をやるつもりなの」 「さっさと戻れ。巻き込まれたら地上に戻れなくなるぞ」 しかし、沙織はここでエリスを逃がしたら大変とばかりに、今度は彼女にしがみついた。 「エリス!お願い。もう何もやらなかったって後悔するのは嫌なの!」 「……」 「私は13年前、射手座のアイオロスに助けてもらった。でも、彼を救えなかった。 双子座のサガやカノンにも手を差し伸べられなかった。 そして彼らに関わる全ての人たちを苦しめてきた。 私はおじいさまから自分がアテナの化身であると知らされた時から女神としての記憶を取り戻し始めたけど、もうその時には聖域を血に染めなくては元に戻せないところまでに事態は悪化していたわ。 お願い。私に自分を認めるチャンスを頂戴。 そうでないと……私は自分を許せない」 自分にしがみついて泣きじゃくる女神。エリスはしばらく放っておいた。 そして沙織が落ち着きはじめたころ、静かに話しかけた。 「覚悟はあるか?」 「えっ?」 「彼らを生き返らせるということは、再び彼らを傷つけるということだ。 もしかすると彼らから何故生き返らせたと叫ばれるかもしれない。もしかすると彼らの中から裏切り者が出るかもしれない。 そのときこれが私の一存なら、アテナは私を恨めば良い。 だが下手に関われば、まともに人間の負の意識を喰らう事になる。逃げる事は出来ない。 自分が傷つく事になってもいいという覚悟はあるか?」 沙織はエリスの顔をじっと見た。 そして力強い口調で、きっぱりと答えた。 「あるわ! それにこっちだって只でやられたりしない。 私はアテナであると同時に、天下無敵の我が儘お嬢と陰口を叩かれるグラード財団の城戸沙織よ。 人間の負の意識なんて、しょっちゅう喰らっているわ」 あまりのズレた返事に、エリスは思わず吹き出してしまった。 「アテナ。人間と暮らして随分変わったみたいだな」 「えっ?」 「今の方が付き合いやすい。女神も環境で変わるらしい。射手座のアイオロスは賭に勝った男みたいだな」 エリスの発言はどういう理屈か判らないが、とにかくアイオロスを褒められて沙織は嬉しくなった。 「今のアテナなら大丈夫だろう。 もう直ぐ私のところの亡霊聖闘士たちが一人の客を連れてくる。 話はそれからだ」 エリスにそう言われて、沙織は驚いた。 |