どれくらい冥界を歩いたのか。 女神ヘカテに会う為に歩いているのにそれらしい場所にたどり着けない。 「……」 地上に戻るべきか。 そんな思いが脳裏を掠めなかったわけではないが、自分が諦めたら全ては終わりである。 聖闘士たちを待っている人たちへの裏切りである。 「絶対に彼女たちの元へ、みんなを返さないと……」 何人かの聖闘士たちには、彼らが大事にしている存在がいた。 紫龍には修行地の五老峰に春麗という少女が。 氷河には絵梨衣という少女が。彼女はエリスの依代という宿命を背負った少女だった。 そして星矢には美穂という幼馴染みがいた。それから今、聖域には彼の姉がの星華がいる。 「ますます嫌われるわね」 彼女たちはきっと自分を恨んでいるだろう。 そう思ったら沙織は全身の力が抜けて、その場にしゃがみ込んでしまった。 美しい鏡の様な地面に自分の泣き顔が映っている。 涙が落ちた時、誰かが沙織の肩を叩いた。 「!」 そこにいたのは、先程自分を完膚なきまでに攻撃した争いの女神。 「エリス?」 「驚いたみたいだな」 沙織は素直に頷く。 「ここは本当に何もない。いくら歩いても面白くない世界になった」 新支配者に対して失礼極まりないセリフである。 だが、彼女は別に自分の発言を訂正したりはしない。 沙織は初めてこの女神の奔放さを羨ましいと思った。 「もうとっくにここを離れたと思ったが……、今回は見どころがありそうだ」 エリスは沙織の腕を持つと強引に立たせた。 「以前なら用は済んだとばかりに天界に戻った女神が、いったいどういう風の吹きまわしだ?」 エリスは面白そうに沙織の顔を覗き込む。 「酷い言い方ね」 沙織は涙を拭きながら反論した。 「私がいつそんなことをしたのよ」 「前回の冥王との喧嘩では、牡羊座と天秤座に全部押しつけて天界へ戻った」 身も蓋もない言い方に、沙織は本気で怒った。 「エリス!いくら貴女でもそんな言い方は許さない。あのとき私がどんなに辛かったら知らないくせに!」 しかし、エリスは動じない。 「それならそう言え。 気高く美しい姿も結構だが、それしか見せないのに自分を分かってくれというのは、いくらなんでも無理な話だ」 「……」 「さぁ、早く地上へ戻れ。もう直ぐこの冥界に嵐が起こる」 「えっ?」 「上手くいけば聖域に聖闘士たちが帰ってくるから、それまで大人しくしていろ」 沙織はエリスの顔をじっと見た。 |