「何を?」 沙織は首を傾げる。 「海皇・冥王と戦っている間、海妃アムピトリーテと冥妃ペルセポネに会ったか?」 その言葉に彼女は『はっ』とした。 「……会っていないわ」 「そういうことだ。この二人は今行方をくらましている。 妃がどちらもいないということで、天界でも海と冥界の管理を誰に任せるか大揉めに揉めた。 そこで冥王・海皇が力を取り戻した時に問題が発生しない様に、どちらも三界に絶大な力を持つヘカテ様に白羽の矢が立った」 「確かにあの方なら誰も反対は出来ないわね」 沙織は溜息をついた。 伯父たちより太古の支配者である女神の方が信頼できるのは、何とも情けない話だった。 「そういうことで、さっさと地上に戻れ。 もうアテナを傷つけようとするものは何もない」 しかし、その言葉に沙織は頷くわけにはいかなかった。 「嫌よ」 するとエリスは薄笑いを浮かべた。 「聖闘士たちはアテナを守って戦った。こういう結末は覚悟の上ではないのか?」 「彼らは消耗品ではないわ。私は私の力の全てを使ってでも、彼らを地上に連れて帰るわ」 すると争いの女神の表情が一変した。 「何をふざけたことを……。今や冥界の支配者はヘカテ様。 そのヘカテ様から許可なしで、冥界入りした人間を地上に戻すことは出来ない。 そしてあの方はそのような理由での蘇生は認めない。」 争いの女神は戦いの女神を睨み付ける。 「貴女は新たな支配者の意志を無視するつもりか!」 「……」 沙織は反論出来なかった。 「アテナ、その思い上がりが聖闘士たちを死に追いやったのだ。 何故今度の聖戦で他の神々が関わらなかったのか気付いてなかったのか?」 「……」 「他の神々は邪魔をしなかったのではない。協力しなかったのだ」 戦いの女神はエリスの言葉に愕然とした。 「さぁ、地上に戻れ。それが役目だろ」 再び冷たい笑みを浮かべた女神は踵を返すと、再び沙織から離れた。 だんだんと自分から離れるエリスを見ているうちに、沙織の双眸から涙が零れた。 悔しい話だがエリスの方が筋が通っている。 しかし、地上に一人で戻るのは絶対に嫌だった。 |